第10章 ホットチョコレート【岩泉】
抱きつきたい気持ちはぐっと我慢して
「え、なんでいるの?!本物?!」
数週間ぶりのはじめくん
帰りは来週だって聞いていた。
「偽物かも?」
「…………偽物でもいいや」
「おい。ほら、お疲れ」
そう言って渡してくれた右手のカップ
「コーヒーは飲まないよ」
「うん、知ってる」
甘い、匂い
「…………なにこれ?」
「ホットチョコレート」
「はじめくんがコレ注文してくれたの?」
「おう」
「ありがと。いただきます」
「おう」
カップの中の熱を
何度か息を吹きかけて冷ます。
「…………熱い
けど甘くて美味しい」
「ん。よかった」
「はじめくんは?コーヒーは?」
「待ってる間に飲んだ」
「待っててくれてたの?」
「おう。ちょっとだけ時間できたから。
…………またすぐ戻んなきゃいけねーけど。
だから、ちょっとでもに会いたくて待ってた」
夜だし、寒いからかフードを深く被ってるし
マスクだし。
顔はほとんど見えなかったけど。
だけどその笑顔が
どうしようもなく嬉しくて。
どうしよう、泣きそうだ。