第1章 リップ【国見英】
小学生の頃、英くんのことが好きだった。
口数は多くないけど、やっぱりカッコよくて
私にとって優しいお兄ちゃんだった。
だけど中学生になって、疎遠になって
いや、私がそうなるようにしたんだけど。
だけど、苦渋の決断?
………だってしょうがなかったんだもん。
ただ、それからは英くんのいない生活に慣れて
それが普通だし、それで楽しかったんだけど
久しぶりに、会って。
身長がもっと高くなって、大人になって
もっともっとカッコよくなった英くんが目の前にいる。
小さい頃に抱いた、幼さの中の恋心が
沸々と呼び起こされて
マズいと思った。
だから、今までみたいにできるだけ会わずに
英くんに会う前の、数週間前の生活に戻さなきゃって。
そう、思うのに。
なぜかその人は、最近よく私の部屋にいる。
…………はぁ
髪を巻き終わった私は、仕上げのリップを丁寧に塗る。
その視界の隅で動く気配がして
そっちを見ると、
身体を起こしてこっちを見ている英くん。
「ねぇ、そんな派手なリップつけてどこ行くの?」
「…………食事会?」
「誰と?」
「友達…………」
「だけ?」
…………。
「じゃないけど」
「男は?」
「…………いるかも?」
「食事会?」
んーーーーー
あんまり言いたくなかったんだけど。
「…………合コン?」
ただ、私にさほど興味がない英くんから
特に返事はない。
と思ったんだけど
「は?、合コン行くの?」
「うん」
「なんで?」
「なんでって…………」
合コンに行く理由
「友達に誘われたから」
「なんだ。人数合わせ?
だったら行かなくてよくない?」
行かなくてよくない?って。
「んーーーー。
でも今日カッコいい人いるみたいだし…………」
「は?」
なんだか機嫌が悪い。
機嫌が悪い英くんは、ちょっと怖い。
「彼氏ほしいの?」
「……うん」
早く英くん以外の人を好きになりたい。