第5章 帰り道【北】
「そうですね!」
立ち止まったまま、細く輝く三日月を二人で眺める。
「………くくっ」
「え、なんですか?どうしたんですか?」
突然笑い出した北さんについ驚く。
「や、伝わらんよな。って」
「え?」
まだ笑いが止まらないらしい北さんをしばらく待つ。
こんなに笑いが止まらない北さんは珍しい。
「すまんな」
「大丈夫、です?」
「夏目漱石、知ってる?」
「はい?知ってますけど?
え、そこまでアホじゃないですけど?」
「すまんすまん。なんでもないねん。
さ、明日も学校やろ?帰ろか?」
いつの間にか元に戻っている北さんが歩き出したのを
三歩分、追いかける。
「え?!ほんまに今のなんなんですか?!」
「いやいや、なんでもないねん」
いやいや、なんでもないことないですよね?
北さんがあんなに笑うって、私絶対何かしてるし?!
でもそれが何なのか、まじでわからへん。
「絶対ちゃいますよね?絶対私、何かしてますよね?!
教えてくれないと気になって今日寝れませんけど?!」
「ウソつくな」
「ウソつきました!スミマセン!
でも、気になってるのはほんとです〜!」
いつでもどこでも寝てる私を知っている北さん。
久しぶりに怒られた。
「そんなとこで寝るな」って
今まで何度怒られたことか。
ただ、そんな私をちらりと横目で見て
また何か考えるように空を見上げる。
「今からゆうこと、気にせんでほしいし、
なんなら忘れてくれてかまわへんから」
「なんでですか?」
「…………聞いたらわかるよ」
…………私にわかるだろうか
「月が、綺麗ですね」