第5章 帰り道【北】
「いやいや、ないですよ。
それに治、彼女おりますし」
「へぇ、そうなんや?
は?彼氏おるん?」
ちょっとびっくり。
北さんとこんな話は初めてする。
「残念ながら、高校三年間
恋人はバレーボール、は私はしないんで。
バレー部の部員、ですかね?いや、それはいやですね?
あーーーー、なんかそれっぽいこと言おうと思ったのに
それっぽいことすら言えない三年間らしいです」
苦笑い
いや、マネージャーの仕事が楽しすぎて、
バレー部と過ごす時間に満足しすぎて、
彼氏っていいな、
好きな人と付き合えるっていいな
なんて、思ったこともなくはないけど。
だけど、やっぱり一月まで毎日体育館に通うことが
私には何より大切な時間なんだと思う。
「北さんは?」
「ん?」
実はあんまり聞きたくはないんだけど。
「彼女、いるんですか?」
「おらへんよ」
「そうなんですね」
ちょっとだけドキドキしながら聞いた返事にほっとして、
そしてつい緩みそうになった口元をギュッと結んだ。