いつかまた、キミと一緒に【文豪ストレイドッグス/長編】
第9章 私の嘘
–太宰side−
「私は………」
そこまで言ったのに、
その先の言葉が出てこない
こんなとこでつまずくとは
自分でも、自分らしくないと思う
確かに沢山の女性に
心中を申し込んではいるし、
体の関係になった人がいないわけでもない
それでも、この言葉だけは言ったことがない
沙羅以外とは
キスだって、一度も。
『…?』
沙羅の頬に添えた右手の親指で
そっと沙羅の唇に触れた
本音を言うなら
今すぐこの唇を奪って
無理矢理にでも自分の物にしたい
けど、…
「…沙羅、この前…中也に会ったでしょ?」
『え?うん、確かに偶然会ったけど…何で知ってるの?』
「なんとなく、そんな気がしたのだよ」
あの日、敦君と出会った日の夜
探偵社皆で社に戻る時
沙羅は用事があるから後から行くと
言っていたと国木田君から聞いた
なんとなく予想はついたけど
敢えて私は何も手は出さなかった
だけど、その後帰ってきた沙羅は
どことなく、
いつもより少し表情が柔らかかった
_____昔の表情と、似ていた
少しの沈黙が続いた後
その沈黙を破ったのは
《ダダダダッ》
《バンッ、ドカンッ》
というすごく物騒な物音だった
音の感じからすると場所は
多分隣の探偵社員のいる部屋からだ
『えっ、何の音!?』
「…敵襲かもしれない、皆の処に行こう」
私はパッと沙羅に触れていた手を離した
「……ねぇ、その髪飾りを付け始めたのって、あの日からだよね」
沙羅が付けている桜の髪飾り、
あの日、マフィアから出て行った日から
ずっと付けているよね。
沙羅に聞こえない声で
ボソッとそう呟いた