君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第205章 205
「アンタに怪我させようとしたことが、スタジオと養成所にバレたのよ」
公言はしなかったが、事務所への報告は入れた。
社長は随分気にかけて怒っていたようだから、養成所やスタジオへも報告を入れたのだろう。
「スタジオはクビ、養成所は強制退所。よくもそこまで貶めてくれたわね」
女の言葉に、はなるほどと心中で頷く。
が事務所に頼んで指示を出したと思っているのだ。
「女の嫉妬は醜いね、ちゃん」
「はぁ?男の嫉妬だって醜いですよ。相手にされてないって気付かずに十さんに妬いて、誘拐だなんて」
「加担したお前も同罪だよ」
どうやら、この二人は何かで互いの利害が一致しただけで、綿密な計画は立てていないようだ。
ならば、万が一にかけてみよう。
女優の本領発揮を見せてやろうじゃないか。
「…そういえば、私のカバンってどこですか?」
「車の中だよ。なんで?」
「スマホは落としちゃった気がするんですけど、カバンの中にGPS入ってるんですよ」
その一言に、二人は顔を見合わせる。
「子供じゃあるまいし、そんな物持ってるわけないじゃない」
「事務所が過保護なもので。私が行方不明になってるのはもう知られてると思うので…もうここは特定されてるかもしれません」
「いい加減なこと言わないでしょ!」
「嘘だと思いますか?」
のその瞳に、鳳と女は息を呑む。
脅しなんかじゃない、事実だと、その目は語っている。
「…場所変えるぞ」
「どこ行くってんの?!」
「取り敢えず車だ!」
二人は誰が見ても明確に慌てている。
大それた事をしておきながら計画は杜撰。連携も取れていない。
綻びが出来たら計画はすぐに破綻する。
「時間がない!」
「分ってるわよ!先に行ってエンジンかけるから!」
女が部屋を飛び出していき、鳳はに手を伸ばす。
抱えられるかと思いきや、ラッキーなことに足の拘束が解かれた。
「大人しくついてきてくれる?」
「怪我したくないですから。女優なので」
にこりと微笑み頷く。
鳳はすでに冷静な判断は出来なくなっている様だ。
それでもは従順なふりをして鳳についていく。
「鳳さん、スマホ忘れてますよ」
「え?」
部屋の扉が閉まった瞬間、の言葉に慌てた様子で鳳は扉へカードキーを翳す。