君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第205章 205
そこまで、知っているのか。
見ていたのか。
というか、気がある素振りとはなんだ。
行き過ぎた片思いと龍之介への嫉妬が過熱しこうなってしまったのかとは鳳を見上げ、そしてその隣に立つ女に視線を向けた。
「…思い出した。Dスタジオの…」
「ええ、そうよ」
女は、楽と共演したドラマの時の製作スタッフの一人であった。
あの時は気にしないように努めたが、ここに彼女がいるのなら、あの時が転んだのは彼女の故意によるものだったのだと、今確信した。
「何で貴女まで…」
「私もね、女優を目指してたの。レッスンを受けながら現場スタッフのアルバイトとして働いて…なのに、貴女が現れた」
「私…?」
「突然出てきて、あっという間に上り詰めて、新人女優賞?TRIGGERのお姫様?歌手デビューしてブラホワ出場?私がどれだけ努力しても掴めなかったものを、あっさり手に入れて…!どれだけあんたが憎いか」
こちらも嫉妬。
の華々しいデビューからこれまでの飛躍は傍から見たら輝かしいものに違いない。
けれど、簡単に手に入れたものでは無い。
幸運だっただけではない。
小鳥遊事務所にスカウトされたことは確かにラッキーだった。
たまたま高校の研修で訪れた東京で、小鳥遊社長の目に留まったのだから。
けれど、どんな時でもレッスンは欠かさなかったし、オーディションだって何度も落ちた。
始めはうまくいかない事の方が多かったし、現場でヘマして謝り倒したことだってある。
寝食がまともに取れない位に気持ちが落ち込む程忙しい日々もあった。
がラッキーだったのは、小鳥遊事務所に見初められた事と、龍之介に出会えたことだけだ。
後は自らの気力と努力でここまで来た。
周りがそう見ないのは、が天と似ているから。
裏で血反吐を吐くほど努力しても、ファンの前ではその姿は微塵も見せない。
いつだって完璧な「女優、歌手の」を届けるために、ファンが求めるであるために。
だが、今そんな事を言っても、彼女に届くわけがない。
嫉妬に狂わされ、の言葉など届かないだろう。
「今は、目指してないんですか?」
「は?」
「女優。目指してないんですか?」
「目指したくても、出来なくなったのよ」
「…?」