第204章 ２０４

「多分、いない」

後から出てきた天たちに振り向き、の指輪を見せる。
3人も龍之介と同じことを思ったようで、一気に面持ちが暗くなる。

「…兎に角、事務所行きましょう。楽、龍の代わりに運転してもらえる？」
「ああ、今龍はそれどころじゃねぇもんな」

行きは龍之介の車で来たのだが、やはり龍之介に運転を任せるのは心配だと、楽は鍵を受け取り皆で駐車場へと向かう。
未だ辺りを見回す龍之介を何とか車に乗せ、八乙女事務所へと向かった。
社長室へまっすぐ向かえば、すでに警察官が数人待機していた。

「楽」
「のし上がるまで来る気なかったけど、今はそんな事言ってる場合じゃねぇ」
「…そうだな。こちらは捜査一課の課長だ。お前たちと入れ違いでそろそろ現場の検証が始まるそうだ」
「ありがとうございます。俺たちは、どうしたらいいですか？」
「まず、当時の様子を聞かせてください。事件、事故、全ての可能性を見出し、精査します。さんは人気女優さんですから、ファンや関係者に狙われたという懸念もあります。事務所や本人から、怪しい人物についての話はありましたか？」

刑事の言葉に、龍之介はふるふると首を横に振る。

「は、自分の立場を分かっています。自分に何かあったらどれだけ多くの人たちに心配と迷惑をかけてしまうか。だから、怪しい人物や危険人物は、俺や事務所に逐一話してくれます。本当に些細なことまで…。だけど、これまで聞いた中でも、に危害を加えるような人はいない、と思います」
「そうですか…」

メモを取りながら刑事はふと顔を上げ、龍之介を見る。

「十龍之介さん、さんとのご関係は？」
「婚約者です」
「…龍之介。結婚前提とは聞いていたが、婚約したことまでは聞いていないぞ」
「ここと契約切れてからのことなんだから報告する義務はねぇよ」

眉間の皴が深くなった八乙女に、楽がため息をつきながら応える。
すみません、と一応呟くも、龍之介の頭の中はの安否で占められている。
刑事の質問に辛うじて答えてはいるものの、何と答えているかはっきり覚えていられない。
だが天と楽も補足してくれているから、状況は通じているだろう。

「分りました。そちらはさんのスマートフォンですか？」