君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第204章 204
「……それなら、大きな騒ぎになることもないね」
電話を掛ける為に出ていく姉鷺を見送り、天と楽は龍之介を見る。
「…俺、周りを少し探してからマンションに帰るよ。もしかしたら、何事もなく帰ってるかもしれないから」
「そうだね。もしかしたら、勘違いして他のタクシーに乗った可能性だってある」
「俺たちも探しながら帰ろうぜ」
可能性は低い。
それでも一縷の望みをかけて3人は頷く。
「俺たちが攫われた時、もこんな気持ちだったのか…」
張り裂けそうな苦しさ。
自分の大切なものが抜け落ちてぽっかりと穴をあけたような空虚感。
それでも、あの時は己のすべき事をして、3人を迎えてくれた。
だから、自分たちも立ち止まっていてはいけない。
出来ることを最大限やらねばならない。
「あんたたち、事務所行くわよ」
「八乙女事務所ですか?」
「警察関係者を呼ぶから、話を聞きたいって。大神くんも呼んだから」
「…でも」
「龍、警察には僕と楽が話をするから、さっき言ったとおりに探しながらマンションに戻って」
「俺たちも同じようにを見送った。ちゃんと詳しく話しておくから」
居ても立っても居られない様な龍之介に天が頷き、楽も同様に頷く。
それならば、と姉鷺もまた龍之介に頷いた。
「ありがとうございます。マンションにもいなかったら…そんなこと考えたくないけど…俺も事務所向かいます」
天たちに見送られ、龍之介はスタジオを飛び出す。
ビルの周りに人影は少ない。
何かあった時の目撃者も少ないだろう。
「…。ん?」
足元にきらりと光る物に気付いた龍之介は、その場に身を屈めをそれを拾う。
「…プレエンゲージ」
紛れもなく、のプレエンゲージリングであった。
ぴったりと嵌まっていた指輪がそう簡単に抜けるはずがない。
ということは、これはが故意に抜いて落としたものだ。
「何か…あったんだ………ごめん」
ならば、マンションに帰ってもの姿を見つけることはきっとできない。
瞬く間に絶望感が襲ってくるところを、龍之介は自らの頬を軽く叩いて首を振る。
この絶望感とは比べ物にならないほど、は怖い思いをしているに違いないのだ。
「龍!マンション向かわなくていいの?」