君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第90章 90
そんな龍之介に一歩近づくのが、今できるの最大限の甘えである。
「私もちゃんとは聞いてないけど、お茶屋で倒れて救急車で運ばれて、検査入院で一泊するけど元気だって」
「そうなんだね。ならよかった」
「私の歌手デビューが嬉し過ぎてヨタついただけって、信じられる?」
の懐疑的なその問いと表情に、龍之介は小さく首を傾げる。
「前、京都で朝食の時に見かけた時はのこと気にしてる風だったけど…」
「どうだかねぇ…」
どうやら、の中では倒れた場所や母の動転具合が気になるようである。
母の話では、その茶屋に父が行っていた事すら知らなかったのだそうだ。
病院から突然連絡が来て慌てて小鳥遊事務所に連絡を入れつつ病院へ向かったら、けろっとした父が芸妓たちと談笑していたらしい。
それでも検査入院となったからまた慌てて先程の電話だったそうだ。
「また妹や弟が出来たらどうしよう」
「…それは、大変なことになりそうだね」
「やんなっちゃうねぇ」
苦笑しながら楽屋に入れば、小さく息をついてスマホを開く。
「…あ、お父様の番号知らない」
「え?!…まさか、ご両親もの番号知らない?」
「うん。東京来るとき番号変えちゃったから」
携帯の番号を知らない。多分今、が龍之介の家に住んでいることも知らない。これではほぼ家出状態じゃないか。
そんなに、龍之介は困ったように笑う。
「そっか。だから第一報が届いたのが事務所だったんだね」
「そう。事務所帰ってから電話しようかな。お花の手配だけしとこ」
すいすいとスマホを操作しながらソファへ座り、は軽く伸びをする。
「注文完了。実家に届けはお姉様辺りが持っていくでしょ」
呟きながらスマホを置き、隣に座った龍之介を見上げる。
「さっき、私を京都に送るって言ってくれてありがとう。すごく嬉しかった。でも、明日も仕事だったよね、龍くん」
「うん」
「京都行くことにならなくて、本当に良かった」
「仕事だろうと何だろうと、の為なら俺は何でもやるよ」
「とっても嬉しい。けどとっても心配」
そんなの言葉に首を傾げていれば、そっとが抱き着いて来る。