君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第89章 89
「どうかした?」
「いや…キスしたいなって思って」
「収録終わったら速効グロス落とすね」
笑いながら龍之介に抱き着き、はそのまま龍之介を見上げる。
「ありがとう、大分緊張とけた」
「良かった。俺たちがついてるから大丈夫だよ」
「うん。頑張る!せっかくの特番だもんね。台無しにしない様に精いっぱいやる」
「大丈夫だと思うけどなぁ…。よし、本番五分前になっちゃったし、行こうか」
もう一度きゅ、と抱き締めてから龍之介はの手を引く。
楽屋出るまでだね、とくすくす笑いながら二人並んで歩き出せば、扉がガチャリと開いた。
「!!」
「「?!!」」
「大事な話がある」
突如焦った様子で入ってきた万理に、二人は驚き顔を見合わせる。
「万理さん、どうしたんですか?」
「さっき、社長から連絡が入って…お父さんが倒れたそうだ」
万理のその言葉に、は小さく頷いた。
「わかりました」
「うん。……え?それだけ?」
「はい、今から本番ですし。生放送に穴をあけるようなことはしません」
そう言っては龍之介を見上げる。
「良いの?お父さんは…」
「東京来るときに決めたの。自分の仕事は何があっても絶対にやり遂げるって。誰が倒れようと、どれだけ悲しいことが起きようと、私は私にしかできないことをしようって。今、私に仕事の穴開けさせることが出来るのは龍くんだけだよ」
そう言い切ってからは、あと三分、行こ。と龍之介を見上げる。
その瞳は完全に仕事をやり遂げるという強い意志で満ちていた。
龍之介はそんなの意志に同意するように頷き万理を見る。
「大神さん、放送終わったら俺が京都までを送ります。京都のご家族と連絡とって、お父さんの容態常に確認してもらっていいですか?」
「わかった。ありがとう、十くん」
「そんな、大したことないと思うけどなぁ…」
が呟いたのが聞こえたが、本番間近という事で龍之介は先にセットへ上がる。
セットの上からの姿を認めた天と楽が「大丈夫か?」というような心配の目を向けてきたのを見て、微笑みOKマークを送る。
本番開始のカウントダウンが始まり、そして放送が始まった。