君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第89章 89
休憩も終え、着替えとメイクを済ませた本番15分前。
「吐きそう」
「さっき余裕で踊ってたじゃないか」
生放送は何回か熟しているものの、やはり緊張するものらしい。
そこへ扉がノックされ、龍之介が顔を覗かせた。
「十くん、良かった。うちのお姫様ガチガチになっちゃって」
「だと思って様子見に来たんです」
くすくす笑いながら万理と入れ替わりに入ってきた龍之介は、鏡の前に立つを後ろから抱き締める。
「今日もすごく可愛いね」
のデビュー曲はロック調のものである。
黒いレースやチュール、レザーが幾重にも重なったミニスカートは所々に金色のリボンで彩られ、レースで縁取られた黒いパフスリーブのトップスにはコルセットが巻かれ、所々にビジューが施されている。
「俺たちの衣装に似てるかも」
TRIGGER衣装の女性版と言ってしまうのが一番近いかもしれない。
そんなことを思いながら再度褒められ、は微笑む。
まだ少し表情は硬いが、徐々にリラックスはしてきたようだ。
「ありがとう、…龍くん」
「ん?」
「リップ、まだつけてないの。だから…」
「のお望みのままに」
の求めることはすぐにわかる。
微笑みそう呟けばの顎を軽く掴みそのまま口付ける。
口紅が付かないのが分かっているからか、何度も啄み舌を絡ませる。
「ん…ぁ…」
「そんな可愛い顔、俺以外の前で見せないでね?」
「ん…龍くんしか見せる人いないよ」
呟きながらそっと抱き着いてくるの愛らしい事。
離せなくなりそうな己を心の中で叱咤し、僅かに離れればは幾分かリラックスしたように微笑んだ。
「何色が良いと思う?」
「うーん、口紅って難しいよね」
「だよねぇ…きらきら衣装だし、グロスが良いかなぁ」
呟きながら手に取ったグロスを龍之介に見せてから差し出す。
「…俺が塗る?」
「して?」
別の意味にとらえたい…。
なんてことを思いながら龍之介はグロスを受け取り蓋を取る。
普段からがメイクしているところを見ているので、案外慣れたものである。
「こっち向いて、軽く口開けて」
「はーい」
軽く唇を開くのその薄い唇にグロスを塗り、龍之介は小さく息をつく。