君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第82章 82
「お墓って…すぐ迷子になるんだよねぇ」
そんな事を言いながらも、歩いていれば幼い頃からの道順なのだからすぐに思い出せる。
物心つくまで誰のお墓か全く知らなかったが、そういえば父は毎年きちんと参っていたと思い出した。
それなりに愛はあったのだろうかと思っていれば母の名前が彫ってある墓の前に着き、カバンから小さなブーケを取り出した。
「中々来れないから、造花でごめんね」
墓の掃除をし、造花だけれど花を生け、線香をあげる。
「色々、あったんだよ。まず、東京に行って女優になったでしょ?今度は歌手デビューも決まった。それとね、大切な人と出会えたよ」
「」
「…え?…なん、で…龍くん」
名前を呼ばれ、目を見開き振り向けば、今母に伝えようとしていた張本人。
「驚かせちゃった?」
「心臓飛び出るかと思った」
「ごめん」
苦笑しながらこちらを見る龍之介に、は微笑みかけ寄って抱き着く。
「何でここに?」
「撮影始めようとしたら機材トラブルで、二時間くらい空いたんだ。大神さんにここ聞いた」
を抱きしめながら微笑む龍之介の言葉に、納得といったように頷いた後、は首だけ振り向き母の墓を見る。
時季外れの霊園は人影もなく、ここには二人だけだ。
「お母さん、喜ぶよ」
「だといいな」
手を繋ぎ、母の墓の前に立てば、並んでしゃがみ込み手を合わせる。
「お母さん、さっき言いかけた大切な人だよ。十龍之介さん。大好きなの、心から愛してる」
「初めまして、十龍之介です。さんに会えて、俺は世界一の幸せ者です。がいるだけで、強くなれる。まだまだ未熟ものですが、必ずを幸せにします」
「二人で幸せになれるように、頑張って生きていくから、見守っててね」
墓石に声をかけ、そっと微笑めばは龍之介を見上げる。
「ありがとう、来てくれて」
「挨拶したかったんだ、のお母さんに。ちゃんと誓えてよかった」
「愛してる」
「俺も愛してる」
微笑みあいそっと立ち上がれば、二人で手を繋いで墓に一礼する。