君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第82章 82
東京で近しい人たちや、龍之介の前では勝手に笑顔になるというのに、なぜ家族の前では笑顔が引くついてしまうのか。
「そう…。昨日のこと、貴女に謝らないといけないと思って」
「謝るべきは私にではなく、十さんにだと思いますけど」
身勝手に穿った見方をし、よりによって何よりもを愛する龍之介にの嘘を吹き込もうとし擦り寄った。
姉には姉の言い分はあるのだろうが、龍之介が少なからず気分を害したのは事実だ。
「…そうね。お見送りの時にお伝えすればよかった」
普通は、わかるはずなんだけどね。
姉の言葉に心の中でそう思いながらため息をつき、は彼女を見る。
つくづく、人としては愚かである。
「他に何か御用は?」
「…いいえ。帰り気を付けて」
「どうも。失礼します」
ピシ、と部屋の扉を閉めては辺りを見回してから荷物を持ち上げる。
「多分、来ないだろうな…。二度と」
そんな言葉を残し、部屋を後にすればフロントへ直行だ。
「荷物の配送お願いします」
「承ります。さん、頑張っとるね」
「皆さんのおかげです」
伝票に記入しながらくすくすと笑う。ほとんどのスタッフは顔見知りだ。
フロント係に再度頑張ってと応援を受け、は荷物の手配をして手荷物だけ持って旅館を出た。
「解放感っ!さて、お母さんとこ行くかな」
幸い大通りは近く、タクシーも拾いやすい。
霊園までは案外近いから歩きたかったが、自分は京都にいたころのではないと、近頃自覚してきた。
京都は東京ほどではないが有名人は珍しくないものの、観光客も多いわけで、変装をしていても見つかる確率も高い。
万理の心配も龍之介の心配も、周囲の気持ちもよく分かるので、大人しくタクシーを拾って乗り込む。
タクシーは丁寧に霊園の入口まで乗せてくれ、無事に到着することができた。