君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第229章 229
「大神くーん」
「おはようございます!」
「おはよう。ちゃんさ、まだしばらく忙しい?」
「そうですねぇ…単発なら何とか受けられるかもですけど…」
スケジュールを確認しながら苦笑交じりに首を傾げる万理に、プロデューサーはそうかぁ、と同じように首を傾げる。
カメラは万理に許可を取り、タブレットを見えるか見えないかの角度で撮影する。
「相変わらず密密スケジュールなんで…」
「みたいだねぇ…この空きは?4日間」
「唯一の年始休みですね」
「うーん、そこはさすがに埋めるの申し訳ないな」
そんな会話を交わしていれば、そろそろ撮影を始めると声がかかる。
もう着替えもメイクも終わったのかとを見れば、椅子に座り考え込んでいる様子の。
の出番がない別のシーンからの撮影に変更になったようだ。
何かトラブルかと、万理はプロデューサーに一礼し急いで駆け寄る。
「?」
「万理さん…」
「ん、何かあった?」
「セリフが…丸っと変わりました」
「え?!」
「5ページ分、脚本家さんがどうしても気に入らないからって…ひん」
「セリフ合わせ付き合うよ」
スタッフから新しい台本を借り、2人でページを開く。
何度かそれを繰り返し、はそっと目を閉じる。
セリフのインプット中である。
「よし」
「いけそう?」
「大丈夫です」
こくりと頷くに、万理もまた分かった、と頷き台本をスタッフに返す。
「ぇ…もういいんですか?」
「はい。セリフ覚えたみたいです」
ほんの数分。
なんならがセリフを覚えるために、と撮り始めたシーンはまだ撮り終わっていない。
「監督に伝えて来ます」
「お願いします」
こくりと頷き、は軽くストレッチまで始めてしまう。
更には小さく鼻歌まで歌っている。
「すげぇ…」
「いやでもハッタリみたいなとこあるかもしれないだろ」
密着スタッフもさすがに信じられないようで、ぼそぼそと小声で話している。
元の台本から数ページ分、の台詞が変わっている。
一度覚えたものを上書きし直すことは、どんなベテランでもすぐには難しいだろう。
それを目の前の少女はたった数分でやってのけたと言う。
「カーット!OK!さんどうー?」