第5章 三ツ谷隆くんに愛されたい①
「…あー…未然に防げたわけですし…とりあえず帰らせて下さい」
注目を集めるのは嫌だ。
「もういいってよ。散れ」
彼の一言でサーッと人混みが引いていく。
「ありがとうございました」
「別に何もしてねえよ。それよりお前立てんの?」
「えっ?あ…はい。って、うわぁっ!」
歩こうとした瞬間、前のめりに転びそうになる。
ぐいっと引き寄せられて、私は彼の腕の中に収まった。
「大丈夫じゃねえな」
「…すみません…」
私をひょいっと抱えた彼は、お店を出る。
「お前。家どこ?」
「えーと。千葉の市川です」
「終電、終わってんじゃん」
「…すみません…」
なんかさっきから謝ってばっかりだな。
「私は適当に帰りますから、大丈夫ですよ」
「いや。そもそも立てねえじゃん。それを大丈夫って言うのかよ」
心配をしてくれる彼には悪いけれど、私の身体の芯が徐々に熱くなってくるのを感じる。
「どうすっかな…」
最後に見た景色は、カッコイイ彼の横顔だった。