第5章 傷
──氷室水月──
不覚だった。
「近くにいた子ども達に気をとられた」と言えば言い訳になってしまう。でも、報告書に書くならばこれが妥当だろう。
流魂街でも瀞霊廷に比較的近い地区。治安は良い方だろう。西流魂街一地区の潤林安と比べたら、少し悪い。
人がいない森とも林とも言える場所に虚は居た。それなりに大きい虚だった。力が強く、動きも早い。戦いながら場所を移動しているのが分かった。
森とも林とも言える場所の入口辺りまできたとき、近くに魂魄の気配を感じた。まだ小さい子どもの魂魄だった。それも一人ではなく三人。虚を目の前に動けないでいる。どこでもいいから離れてほしい。
虚の攻撃を避けようとしたとき、動けなかった。否、動かなかったの方が正しいのかも。後ろに子ども達がいたから。避けたら子ども達に当たる。
攻撃を受けたまま虚を斬魄刀で一刀両断。虚は消滅した。
地に足を着いたとき、斬魄刀を支えにしないと立っていられなかった。この場にいると怪しまれる。傷をどうにかしながら瀞霊廷へ戻らないと。
子ども達は変わらずいた。先程より顔が青く見えるけど怪我等はしていないらしい。それを確認すると森とも林とも言える中へ入って行く。
避けてよかったのに、動けなかった。なんでだろう?ただ一瞬、あの子ども達の姿に昔の自分を重ねてしまった。自分もあんな感じだったのだろうか?
とりあえず適当に木の根本に腰を下ろした。肩から腹にかけて死覇装が裂けている。思ったより重傷だ。
白雉を置いてきたことを後悔する。回道は苦手だから、回復の際は白雉を使って回復していたのに。体力が低下しているから白狼に出てきてもらってもうまく運べないだろうし。
このまま瀞霊廷まで歩くしかなさそうだな。運良ければ他の死神に遭遇できるかもしれないけど、この広い流魂街では無理に等しい。
なにより浮竹や京楽に知られたくない。多分心配してやってくるだろうから。二人は隊長、補佐と云え一隊員の怪我で隊の仕事が停滞するような事態にしたくない。それに、瀞霊廷を離れたとき浮竹の体調は良い方ではなかったし。
とりあえず戻ろう。白雉で回復してから報告へ行けば問題ないはず。