第3章 ある時の八番隊
──氷室水月──
現世から戻ってきて数日。京楽を探して八番隊舎へ行けば、いつも通り適当な部屋でくつろいでいた。相変わらず死覇装に女物の帯を使い、上から派手な女物の着物を羽織っている。足袋は履いてない。
現世で購入したお土産を渡しにきただけなのに、あれよあれよと部屋に招かれ座らされた。
そのうち仕事をサボっている京楽を探しに伊勢副隊長が障子を勢いよく開けてきた。
「七緒ちゃん丁度良かった。水月ちゃんがお土産を持ってきてくれたから、お茶入れてきてくれる?」
このまま帰る予定だったので「別にいらない」と言ったけど京楽の「七緒ちゃんも入れて三人分ね。これ隊長命令だから」に暫く居座る事が決定した。
「『隊長命令』するくらいなら、ちゃんと仕事したらいいのに」
サボり気味の京楽を支えるため色々奔走していると聞いたことがある。今も朝から止まらず仕事しているのであろう。京楽がきちんと働けばこんな奔走することはないはず。
「そう言う水月ちゃんも、よく羊羹買ってきてくれるよね」
伊勢副隊長のためと思ってはいない。迷惑かけているであろう同期に代わって詫びの気持ちで渡しているだけ。
「やちるみたいに小さかったのに、大きくなったね。なにより____」
外を見ながら思った事を言う。護廷十三隊の中で一番小さい十一番隊の副隊長を思い浮かべる。初めて見たときは小さかったのにいつの間にか背を少し越された。見た目も幼かったのに、今は母親と瓜二つだと思った。
お互いに変な空気が流れているのが分かった。でも、何と言って良いのか分からない。そんな沈黙を破ったのは私の斬魄刀、白狼だった。いつの間にか具象化して京楽の手に噛みついていた。
京楽に非はないのに何やってんだコイツ。とりあえず一発小突く。
そんな事をしていたら伊勢副隊長がお茶一式を持って戻ってきた。丁寧に小皿まで。
京楽に渡したお土産は、現世で最近人気の鳥の雛を象ったお饅頭だ。列を作ってまで購入していたから間違えないだろう。