第3章 ある時の八番隊
──京楽春水──
七緒ちゃんから逃げるように八番隊舎内の別の部屋でくつろいでいると水月ちゃんがやってきた。
氷室水月ちゃん。浮竹と同じく霊術院からの付き合い。初めて会ったときはまだ小さかったのに、この数百年でいろいろ成長したよね。それでもボクより一尺以上小さいけどね。
浮竹に代わって虚討伐や現世へ行くことが多いからあまり会えないんだよね。今回は現世に行ってたみたいで、そのお土産を持ってきてくれた。
そのまま帰ろうとしたから引き留めて座らせると七緒ちゃんがこちらに向かってくるのが分かる。
勢いよく障子が開き七緒ちゃんが入ってこようとしたけど水月ちゃんが居ることに気付いて戻ろうとしている。
「七緒ちゃん丁度良かった。水月ちゃんがお土産を持ってきてくれたから、お茶入れてきてくれる?」
水月ちゃんは「別にいらない」と言ったけど七緒ちゃん休憩してないみたいだから、このまま三人でお茶にしよう。
「七緒ちゃんも入れて三人分ね。これ隊長命令だから」
そうお願いすると七緒ちゃんはお茶の準備に向かった。持ってきた書類をボクの横に置いて。
「『隊長命令』するくらいなら、ちゃんと仕事したらいいのに」
水月ちゃんは気付いたみたい。
「そう言う水月ちゃんも、よく羊羹買ってきてくれるよね」
「これは別に」と視線を横にする水月ちゃん。ボクが仕事サボり気味なのは今に始まったことじゃない。その分、七緒ちゃんが動いていることが誰かの口から回ってきたらしい。七緒ちゃんの好物である羊羹をお土産で持ってきてくれることが増えた。それも七緒ちゃんの嫌いな抹茶を避けて。
「やちるみたいに小さかったのに、大きくなったね。なにより____」
外を見ながら水月ちゃんは言った。水月ちゃんも何回か会ったことあるものね。お互い感傷的な雰囲気になった。別に水月ちゃんが悪い訳ではない。
言葉が出てこない。沈黙の間を破ったのは白い仔犬。おもいっきりボクの手を噛んできた。水月ちゃんの二本ある斬魄刀の一振、白狼。勝手に具象化して出てきたらしい。