第1章 事件1.新米刑事恋を知る
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溺れた男の子を母親に引渡してすぐに飛田が肩に掛けてくれたジャージの上着
カナは濡れてしまうからと返そうとしたが、そう言う前に大きなジャージに身を包まれてしまいもう返すことができなくなってしまった
「すいません後で洗ってお返ししますね」
「いえ、お気になさらず」
集まっていた人々も男の子が助かったのを見て解散し始める
レスキューのサイレンが近くまでくると、飛田はキョロキョロと周りの様子を伺ってどこか落ち着かない様子を見せた
何か探しているんだろうかと思った時、コソッと耳の近くで話される
「実はあまりレスキュー隊に名乗りたくないので自分はこのまま帰りますね…」
飛田自身いなかったことにして欲しいと言われ、カナ自身もできれば警察官だということをレスキュー隊や飛田、男の子の母親、周りの人達に知られたくないなと思った
あまり目立つつもりもないし、褒められたくて助けた訳でもない
そしてレスキュー隊には「無事だったから良かったが飛び込むのは…」と言われてしまうのは、自分が警察官をやっているからよくわかっている
「あの、私も名乗る程の者じゃないのでできればそっとこの場を立ち去りたいんです…」
そうは言ったものの、こんなびしょびしょに濡れたままで家まで歩いて帰るには遠すぎるし、やはりレスキュー隊にタオルや代わりになる服を借りるなりするしかないかと諦めモードだった
でも一緒に救助をしてくれた飛田さんだってずぶ濡れなのにと気付き、
「飛田さんのおうちは近くなんですか?」
と聞いた
すると飛田はその質問の裏にハッと気付いた
「こんなに濡れていてはそっと立ち去ることはできても帰宅は難しそうですね…」
「まぁ…このまま帰るには遠いですね…」
何か良い方法はないかな、と苦笑いを浮かべるカナを見て、飛田は少し考えてから言った
「自分の家はすぐ近くなので、良ければ服お貸ししますよ」
「えっ!?いいんですか!?」
サイズは明らかに合わないだろうけど、ずぶ濡れのまま歩くよりはマシだ
カナは飛田の好意に甘えることにした
そのうちにレスキュー隊は現着し、隊員が降りてくる前にと2人は隙を見て走り出した
助けた男の子の母親に呼び止められた気がしたが、2人は振り向かず、ずぶ濡れのまま足を進めたのであった