第1章 事件1.新米刑事恋を知る
「なんか、良いことしたのに、悪いことしたみたいに、なっちゃいましたねっ…」
飛田の後ろを着いて走り、カナは息を切らしながら話し掛けた
思い切り走り出したはいいが遠くからレスキュー隊員に「待ちなさい!」と叫ばれてしまい、事情を知らない人から見たら何かやらかしたずぶ濡れの悪い奴が走っているようにしか見えない
「事情はあの母親が話してくれると思いますから大丈夫でしょう。それより、本当にあの場に残らなくて良かったんですか?」
カナの走る速さに合わせ、飛田はペースを落とした
「それを言うなら飛田さんこそ!っていうか、水難救助の訓練をした事があるって、飛田さんは何か海とか水関係のお仕事されてるんですか?」
「そう言う星宮さんこそ、訓練を受けたことがあると言っていましたけど?」
お互いに知られたくない仕事だから濁しているのか、それとも初対面の人に詮索されたくないからなのか、質問が質問で返ってきてしまう
これでは会話は続かないなと、カナは遠回しに伝えた
「私、公務員なんですよ…」
「奇遇ですね、自分も公務員です」
するとなんと飛田も同じ公務員だと言うではないか
水難救助を受ける公務員とは…と2人は考えたが、カナは警察官以外にも水難救助訓練をする公務員がいるんだなと思った
「公務員ならレスキュー隊に名乗っても大丈夫なんじゃないですか?」
「それを言ったら星宮さんも同じですよね?」
う…と言葉が詰まるカナに飛田は、自分もこれ以上詮索されたくないし、彼女もあまり知られたくない様だからと提案する
「この話はやめましょうか」
「そうですね…」
濡れた服を着たまま走るのは身体に重みを感じ、風が当たると体温も奪われていきそうだ
少し冷静になって周りを見ながら走ると、すれ違う人達には二度見をされ恥ずかしさも出てくる
勤務中は犯人を追って走っている姿を見られるのは当たり前で恥ずかしさなんて感じたことはなかったが、非番の時にジャージでしかもずぶ濡れで走るのは本当に恥ずかしい…
これは何かの訓練だと思うようにしようとカナは飛田を追いかけて走ることだけに集中した
「もうそこなんで」
飛田の指差す先にはシックな色のマンションがあり、ホッと胸を撫で下ろした