第3章 事件3.刑事2人恋の始まり
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駐車場から公安部までの道のりはエレベーターに乗っている時間の違いだけで一課に行くのと差程変わりはない
カナは風見の後を着いて行き、歩幅の違いにおいていかれない様にといつもより早足に歩いていた
ロビーに入りゲートに自分のICカードをかざせば、一歩先を歩く風見との距離が離れ、駆け足で距離を詰める
風見からは車の中で見せた柔らかな表情は既に消えていて、昨日見た公安さながらのキリッとした顔が存在感を出している
そんな強面とも言える風見の後ろを小柄な女性が不安気な顔で付いて歩くというのは庁舎内では稀な事で、すれ違う警官達は珍しそうな目で見るのだった
「(私絶対何かやらかした新人に見られてる…)」
恥ずかしい気持ちはもちろんあったが、カナ自身も風見と同じ警察官であり、登庁と共に気持ちを引き締めゲートを通ればすっかり警察官の顔になる
……筈なのだが、今日ばかりは胸のざわめきが落ち着かず、更には前を歩く風見とのキャリアの差を雰囲気で痛感し、エレベーターまでの距離がいつもより遠く感じてしまっている
エレベーターへは登庁したばかりの同じ一課の刑事が数人先に乗り、その流れでカナ達二人も乗り込んだ
おはようございますと一言発して乗り込んだエレベーターは公安刑事が一人いるだけで緊張感が漂っているように思えた
そしてすぐに着いた6階のフロアで一課の刑事は降りて行く
パネルの前で開くボタンを押してくれている刑事はカナが一課の刑事と知っていて「どうぞ」と先に降りるよう譲ってくれる
「あっ、私今日は上に行くので!」
それを聞いて不思議そうにエレベーターを降りて行った刑事と交代する様にカナがパネルの前に立った
きっとあの刑事によって「三係の新米が公安刑事に連れていかれた」とすぐに噂が広まるに違いないと、閉じるボタンを押しながら小さく溜め息をつく
「部署に着いたらすぐに三係へ連絡を入れるので、大きな噂にはならないと思います」
「えっ…」
カナは風見に振り返り、心の声が漏れていたのではないかと急いで口を塞いだ
しかしどうやらそうではない様子…
上部にある表示の数字が増えていくのをずっと見ている風見に勘づかれ、更に気を遣わせてしまったと、カナは口に持っていった手を下ろし前に向き直した