第3章 事件3.刑事2人恋の始まり
そんな苦笑いの風見にカナはもしやと気が付いた
逆に朝食を食べたかと聞けば案の定食べていないと言われ、カナは急いで通勤鞄を開け、何かあった時にと常備していた物を取り出し風見に見せる
「こんなのしかないんですけど、カロリーバーで朝ご飯代わりになりますか…?」
「えっ!いいんですか?!」
やった、と喜ぶ風見の雰囲気はカナの知る飛田そのもので、カナはその横顔を見たまま固まってしまった
「(あれ…今は飛田さんじゃなくて風見刑事としているんだよね?風見刑事でいる時もこんな表情するんだ…)」
カナが出会った飛田は風見が演じている人物で、警視庁で会った風見が本当の風見だと思っていたカナ
雰囲気の違いから、自分へ向けたあの笑顔は演じられた物だと思い込んでしまっていたが、やはり風見は飛田で、飛田は風見なのかと、吸い込まれる様にみつめてしまっている
「あの…本当に貰っても良いんでしょうか…?」
「あ!すいません!食べてください!えっと…刑事っていつご飯が食べられるかわからないじゃないですか…だから念の為非常食で持ち歩いているんです」
ガン見してしまったことに気付いて慌ててカロリーバーの袋を開ける
運転中でも食べやすいように棒状の先を少し出してやり、どうぞと差し出せば、助かりますとにこやかにする風見にカナの胸はギュッと締め付けられる
「ん、うまい!」
窓の外に視線を外せば反対側から聞こえてくる嬉しそうな声に、忘れようとしていた飛田が心に戻ってきた
もしかして風見刑事は飛田さんを演じている訳ではないの…?
風見刑事に初めて会った時、雰囲気があまりにも違うから演じてるんだって勝手に思い込んでた
それに飛田さんのことを忘れて欲しいって言われたから、別人として扱わないといけないって思っちゃった…
も、もしかして、私は元から風見刑事に恋してたってこと!?
「ごちそうさまでした!」
「…あ、はい!」
空になった包みを受け取れば、窓の外には目的地である庁舎が見え始め、今日もまた一日が始まろうとしている
「目暮警部には自分から連絡を入れるので、このまま一緒に公安部まで来てください」
「わかりました…」
駐車場へと向かう車の中で、カナはまたもや複雑な心境に戻るのだった