第1章 事件1.新米刑事恋を知る
……が、来るはずの衝撃や痛みはなく、自分に当たると思っていた流木は真横を流れて過ぎて行く
代わりにカナの元に来たのは、
「大丈夫ですかっ!?もう少しでレスキューも来ますから頑張りましょう!」
ジャージ姿のガタイの良い男性だった
男性はカナを抱え込む様に両手を岩に付けて濁流からガードしてくれている
きっと流木はこの男性に当たって進路を変えたに違いない
「あ、はいっ、えっと、ありがとうございます??」
まさか人が来てくれるとは思わず、突然の事にお礼の言葉も疑問形になってしまった
「貴方は自分が守りますから、その子のこと、絶対に離さないでくださいね」
「はい!絶対に!」
2人いれば男の子を安全に岸まで運ぶことができるが、さすがにこの男性は民間人だろうとカナは躊躇した
しかし、民間人の中にもライフセーバーの資格を持っていたり、水難救助訓練の経験がある人だっている
ここまで泳いで来てくれたということは、泳ぎに自信があるか、余程正義感が強い人だろう…
「あ、あの!お名前は…?」
「飛田です」
男性の名前は飛田というらしい
「私は星宮といいます。飛田さん、私を引っ張りながら岸まで泳げそうですか?私はこの子を背浮きさせながらバタ足します」
カナの問いに飛田は、カナが2人で男の子を岸まで運ぼうと考えているのがわかった
「あ、もちろん難しいと思ったら断ってください。レスキューを待ちましょう」
「星宮さんはこういった救助の経験が?」
「少しだけですけど、訓練を受けたことがあります」
訓練を受けたから絶対大丈夫というものはないが、男の子の体力やこの冷たい水の中に2人がずっといることを考えたら…と、飛田は考えを決めた
「自分も水難救助の経験があります。危険はありますが、あなたとなら大丈夫な気がします…」
初対面で相手の素性がわからないというのに、2人は頭のどこかで“この人となら救助できるんじゃないか“という確信じみたものを感じた
2人は目を合わせて強く頷き、各々体勢を整えた
「ボク、今からお母さんの所に戻るから、お空を見てお口で息を吸えるかな?」
「……う"んっ!」
カナの「お母さんの所に戻る」という言葉に男の子は泣いていたのをグッと堪え、大きく首を縦に振った