第2章 事件2.刑事2人恋に迷う
風見が“降谷”と呼んだこの男こそ、潜入捜査中の上司でありポアロでアルバイトをしている安室透である
突然の上官の登庁に風見の周りにいた同僚達も席を立ち、頭を下げた
降谷は部下達に仕事を続けて構わないよと着席させ、手土産に持ってきたポアロのサンドイッチを風見の隣りに座っている部下に配るようにと手渡した
「降谷さん今日は登庁予定ではありませんでしたよね!?」
「なんだ、僕が突然登庁してはいけないのか?」
「そういう意味ではありません!!何か用事があるなら自分が動きますから遠慮なさらず言ってください!」
「君に遠慮をしたことなどないよ」
うぐ…と心臓に突き刺さりそうな何かを跳ね除け、風見はすぐに平然を装った
「でしたら何か急ぎの事ですか?」
今日は残業も程々にして自宅で休もうと思っていたが、直属の上司が来たとなればそれも叶わなくなる
やれやれ今日も深夜コースかと覚悟を決めた
「例の財閥の案件の資料確認と、僕が入手したデータを渡しに来たんだ。あとは君の失恋の話も聞きたくてね」
またこの人は冗談を…と思いながらハハッと苦笑いを返した
降谷は2人きりで話をしたいとのことで、事件の資料を持って小会議室へと向かう
時間も時間なので廊下の照明も最小限となっており、慣れている場所であってもこの薄暗さに何かが化けて出てくるのではないかと頭を過ぎってしまう
もちろん辿り着いた小会議室の明かりも最小限、入口に1番近い蛍光灯だけをつけ、風見はテーブルに資料を置いた
昼間も取調室ではなくこういった所で話せていれば何か変わっていたかもしれないな…と思うも、上司に悟られない様胸に留める
その隣りで降谷は持参したノートパソコンを開き、入手したというデータを読み込み始めた
「指示通り小森財閥の捜査権を公安に移しましたが、降谷さんがそうおっしゃるという事は潜入先の組織と何らかの関わりがあるということでしょうか?」
「ああ。僕は直接関わっていないが、組織の研究所が多額の資金援助を受けているかもしれないんだ…」
上司の潜入先の詳しい事情は明かされていないが、ヤバい裏の組織に潜入しているという事を聞いている風見はゴクリと固唾を飲んだ
「もしかして、小森財閥の秘書夫婦失踪もその組織が…」
「絡んでいる」
データの読み込みが終わり見せられた画面には名簿が載っていた