第2章 事件2.刑事2人恋に迷う
「あっ…すいません…公安部のフロアに来るの初めてだから…緊張しちゃったのかも…」
自分の涙に気付いたカナは明らかに動揺していて、また風見から視線を外す様に俯いた
昨日会った飛田とはこれからも仲良くなりたいと思っていて、そしてそれは恋なのかもしれないと気付いたばかり…
なのに飛田の正体である風見から、飛田を忘れろだなんて言葉が飛んできた
ここに来てから頭の中はゴチャゴチャで、飛田と風見が同一人物ということを理解するだけでも混乱しているのに、更に追い打ちが掛けられる
刑事失格ですね、と続けたカナの目は涙を留めきれず、ポタポタと雫となってテーブルを濡らしていく
そんなカナの様子を見た風見は緊張で泣いているのではないと察し、テーブルの下で拳を強く握った
これまで散々公安としての職務を全うし、自分のせいで流す涙を何度も見てきた
その度に自分はなんて事をしているんだと胸が締め付けられることだってあったが、そうまでしても貫かねばならない事もあり、その為ならば悪にだってなる覚悟もある
どんなに憎まれようとも、自分は自分のやるべきことをやってきた
「(いつだって覚悟はできているのに、今回ばかりは胸が痛い…何故だ…)」
こういう時は表情を崩さぬよう心掛けている風見も、めずらしく眉を寄せた
そしてせめてもの思いでポケットからハンカチを取り出し、カナの目の前に差し出した
「…すいませんっ」
カナがそう言いながら風見のハンカチで涙を押えた時、ほのかにした風見の香りがまた昨日の飛田を思い出させる
「あなたを信用していない訳ではないんです。ただ、こちらに不利なことがあれば刑事一人を辞めさせることなんて簡単なんです」
この部署はそういう所だと、眼鏡をクイッと上げながら険しい表情を見せる
「あなたみたいな有能な刑事を失う訳にはいかないんです。だから、万が一の為にも昨日のことは無かったことにして欲しい」
カナは涙を押さえていたハンカチを膝に下ろしギュッと握る
自分自身の為に忘れた方が良いと言われても、昨日から頭の中は飛田の事で一杯なのに…そう簡単に無かったことにできるだろうか
トントントン━━
素直に「わかりました」と言う事ができず戸惑っていると、この部屋のドアが叩かれガチャりと開いた