第2章 事件2.刑事2人恋に迷う
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カナが取調室に入るのは初めてではない
交番勤務の時にも、刑事になってからも、被害者や容疑者からの聴取で数え切れない程使い、もちろん掃除にだって入ったりもしている
ただなんとなく気持ちが落ち着かないのは、ここが公安の取調室であり、今から入って来るであろう風見刑事に、何を聞かれ、逆に何を聞けば良いのか、全く頭が回らない状況だからである
更に殺風景な室内が冷たさを感じさせ、胸がキュウっと縮んでいく
「(取り調べを受ける人ってこんな気持ちなんだろうな…)」
と、以前取り調べをした面々を頭に浮かべていると取調室のドアが開き風見が入って来たのでカナは慌てて椅子から立ち上がった
「こんな所に待たせてしまって申し訳ない…」
風見は座っていてかわまわないと言いながらトレイに乗せたインサートカップのコーヒーを、ホルダーの取っ手を持ちながらテーブルに置く
それでも立ったままのカナはハッとし、斜め45度よりやや深めに頭を下げて身体を堅くした
「公安の方に用意させてしまってすいませんっ!」
「いや、元はと言えば私が呼んだんだ。気にしなくて良い」
とは言ったものの、いつまでも座らずにいるカナを見た風見は自分が座らなければ一生立っているつもりだろうと、先にパイプ椅子へと座った
それを見たカナは「失礼します」と一言、やっと椅子へ座る
元々休憩するつもりで沸かしていたお湯で淹れたコーヒーを風見は一口飲み、どうぞとカナにも勧めた
目の前でフー…と湯気を割りながらコーヒーを飲む彼女を見て、さて何から話すべきかと眉を寄せていると、相手の方から先に話が飛んできた
「えっと、捜査の引き継ぎでしたよね…実は私まだ直接関わっていなくて、詳細は責任者の目暮の方から聞いた方が的確かと思うのですが…」
話したい事はこれではない
しかしどう聞くべきかまとまらず、かと言って沈黙は気まずく、カナは仕事の話を始める
先程から目を合わせようとしないカナの様子に、きっと戸惑っているのだろうと風見は思った
「昨日の男の子、その後変わった様子はなく元気だそうです」
「えっ…」
俯いていたカナの顔が上がり、ようやく目と目が合った