第1章 事件1.新米刑事恋を知る
「ちゃんとわかりやすく、細かく教えてちょうだい?」
「えぇ~…長くなりますよ…?」
「書類整理も落ち着いているし、急な通報がなければ大丈夫でしょう」
佐藤は自分の机から椅子を引っ張って来て、高木は引き続き昼食を食べながら聞くつもりらしい
そして飲み物を片手にちょっぴり照れ笑いをしながらカナは話し出すのであった
「あれは昨日の昼下がりの事でした…」
「その始め方…」
苦笑いしながら高木がツッコミを入れる
「だって物語には雰囲気って大事じゃない?」
「いいから早く教えなさい!」
***
時は昨日の昼下がり
非番に当たったカナはトレーニングも兼ねて川沿いをランニングしていた
前日の大雨が嘘のようにカラッと晴れた良い天気で、心も弾み太陽が背中を押してくれている
「(これで突然の呼び出しが来なければホント最高な非番だなー!)」
自宅からだいぶ離れた所まで来ていて、もし呼び出しがあったらどうしよう…という気持ちも無きにしも非ず、その時はその時だと思うことにして走り続けた
道行く人の中には自分と同じでランニングをしている人もいたり、自転車を走らせたり、老夫婦が仲睦まじく肩を並べて歩いていたり…
いつもこんな穏やかな日常であれば警察官の仕事も減るのになんて思いたくなる程、なぜこの町はこんなにも事件が多いのだろうか
日頃の町の治安を考えながら走るのも、こりゃまた職業病だなとカナは苦く笑うのだった
そしてやはり事件はすぐ隣りに潜んでいて…
「誰か!!誰か助けてくださいっ!!」
河原から聞こえてきた女性の声にすぐに反応したカナは、迷うことなく川沿いの土手を駆け下りながら女性の指差す方向を確認した
川は昨日の大雨で増水し茶色く濁った水が激しく流れており、時々上流からの流木が流れに身を任せているのがわかる
一体女性の指差す先には何が…
「む、息子がっ!川に落ちて…!!」
土手から下りたカナに女性は遠くから叫ぶ
息子と聞いてすぐに川の中にいるであろう人を捜すと、岩に引っかかった流木の間に、未就学児くらいの男の子がいた
水から顔を出そうと必死にもがく程身体は沈み、顔が水面から出たり沈んだりを繰り返している
「(このままじゃダメだ…!)」
カナはもう男の子を助けることしか頭になかった