第1章 事件1.新米刑事恋を知る
「何をそんなに盛り上がってるんだね?」
分厚い事件ファイルを3冊抱えて三係の責任者、目暮警部が戻ってきた
カナはすぐ目暮に駆け寄り、自分が運びますとそれを受け取ると目暮の後をついて彼の机まで歩いた
「目暮警部、お疲れ様です」
「それが、星宮に好きな人ができたとかで…」
「本当かっ!?」
佐藤の挨拶の後に高木が控えめに言うと、目暮は勢い良く背後にいるカナに振り向き、目をまん丸くさせ驚いた
「目暮警部までそんなに驚かないでくださいよ~!」
「いやぁすまんすまん…君からはそんな話まったく聞かないから驚いてしまったよ」
もぅ!と頬を膨らませながら3冊重なったファイルを目暮の机へと置くと、目暮は1番上のファイルを取りニコニコしている
「進展の報告楽しみにしているよ!」
「し、進展だなんてそんな…!」
「進展といえば、この前の秘書夫婦失踪事件、何か進展はありましたか?」
じわじわと頬を赤くするカナを退けて佐藤が聞いたのは、目暮が今目にしているファイルの背見出しに記載されている「小森財閥秘書夫婦失踪事件」のことだった
情報共有されていたカナもその事件のことは真新しく覚えている
「その事件ってただの失踪事件ではなく殺人事件の可能性も視野に入れるって話で、ウチからも何人か現場検証に行ったやつですよね?」
「あぁそうだ。不審な点が多すぎてなんの手掛かりも掴めていなかったが、唯一微量の血痕が発見され、ただの失踪事件ではないんじゃないかと我々の課も動くことになったんだが…」
そこまで説明して言葉を濁し始めた目暮に、3人は首を傾げる
目暮はうーんと言い辛そうに眉間にシワを寄せながら、最終的に溜め息をひとつついて真剣な顔を上げた
「この事件、大きな何かが動いているようで、公安が介入する事になった」
「「「公安!?」」」
公安はカナ達捜査一課よりも立場が上の組織
機密事項が多く何の事情も話されないまま事件の捜査を中止させられたり、時にはコマの様に扱われたりすることも…
組織的に仕方ないとわかっていても気持ち的に許せないことも多く、いがみ合ってしまう仲だ
「公安部の風見君から事件の資料を届けるように言われてな…その前に一通り目を通しているんだよ」
「またあの人ですか」
そう言って苛立ちを見せたのは佐藤だった