第1章 事件1.新米刑事恋を知る
「すすすすいませんお見苦し物をっ…ぁ…!」
「だっだだだ大丈夫です見ていませんからっ!」
目をギュッと瞑りカナを見ないようにしている飛田は、自分が持っていた雑誌がばらまかれたことなんか気付いていないようだった
先に雑誌に気付いたのはカナの方で、固まる飛田におかまいなく近付き落ちた雑誌を拾い上げた
「飛田さん、ヨーコちゃん好きなんですか!?」
「本当に見える一歩手前で目を…はいィっ!?」
飛田が目を開けると自分の足元にカナがしゃがんでいて、集めたはずの雑誌を片手に見上げている
シャワー明けにダボダボなシャツを着て上目遣いで首を傾げられた飛田は少なからずドキッとしてしまい、雑誌の存在を隠すのが先か自分のこの気持ちを隠すのが先か判断がつかなくなってしまい固まった
「(こ、これが俗に言う彼シャツのTシャツ版……いや、自分は彼氏でもなんでもないんだが…)」
なんて思いながら一旦落ち着こうと眼鏡をクイッと上げた
「あっ、えっと、それはですね…」
「私もヨーコちゃん大好きなんです!可愛いし、演技もすごいし、歌もいい歌ばっかりだし!」
カナは「わぁ!」と言いながら拾い集めた雑誌の表紙を次々と見てはその中に紛れていた写真集に目を止める
そんな沖野ヨーコに夢中になるカナを見て飛田は隠そうとしていたアイドルオタクな部分を全面に出したくなりウズウズし始めたが、どこまで語って良いのか程度がわからず口から出そうになる沖野ヨーコへの想いを飲み込んだ
「実はある人の影響でハマってしまって…よければ読んでいってかまいませんよ」
「いいんですか!?」
キャッキャと子どもの様に読み始めるカナに飛田も自然とニッコリしてしまう
そしてリビングの端にあるキッチンに立ち沸かしておいたヤカンのお湯をマグカップに注ぎながら、ふと水難救助を思い出した
現場の状況を瞬時に把握し判断する力、被害者親子への対応力、何よりあの行動力…
「(あの時はだいぶしっかりした人だと思ったが、こんな可愛らしい一面もあるんだな…)」
そんな事を思われていただなんて、写真集に夢中なカナは気付いていないのだった…