第10章 二人の共通点?
「補聴器外すと、本当に近くで話ししていただかないと聞こえないんです。でも、母が将来、私が苦労しないように。って、小さい時から。発音、言語の先生をつけてくれて。手話も。でも、手話より『マミは、聞こえるんだもの。言葉の練習をしましょうね』って、発音の方に力を入れてくれて」
「うん……」
マミは、一生懸命伝えようと、拓眞の涼しげな目元を見つめ。
拓眞は、マミの言葉を受け止めようと、綺麗な目元を見つめ。
互いが互いを思いやっていた。
「でも、どうしても『さしすせそ』のさ行の発音が苦手で……さっき、で、出塚さんのお名前を噛んじゃって。うまく発音できなくて。何回もごめんなさいっ」
(そんな事。気にしなくていいのに)
拓眞は、思わず口元に笑みを浮かべてしまった。
だけど、真剣なマミが傷つかないよう、何とか踏みとどまると。
「マジ、出塚って、難しいのよ。俺だって噛むもん。それも、面接とかさ。大事な時噛みそうにさ。勘弁してよ! って感じ? 朝仕事初めて直ぐにさ。お客様に名前の読み方、聞かれてさ『でじゅか』って思いっきり噛んじゃった事あるしね(笑)」
未だ、瞳には涙が見えるけど。
クスッて笑ってくれたマミに拓眞も、今度は、大笑いして。
「私も『かんじゃき まみ でしゅ』って『子供のころは、可愛かったわ~』って母にからかわれます。いまだに(笑)」
そう、返す事が出来たマミ。
「分かるっ。母親ってさ。何で昔の事蒸し返すのかね? 喧嘩するとさ『『でじゅか たくま でしゅ』って可愛かったのに~』とかさ。訳分かんない事叫んでさ!」
二人には、共通点があるみたい。
なんだか嬉しくて、気がつけば笑い合っていた。