第10章 2人きりのバースデーパーティー
「うん、ゴメンね。
玄関の気配で気づいちゃった」
結は心底残念な顔をすると、「えー、忍にサプライズ難しい……」とかわいく眉根を寄せた。
でもすぐに笑顔を取り戻すと、「ま、いいや!」と言ってオレの腕をとってリビングの方へ歩き出した。
部屋は、風船や紙でできた飾りの花で装飾されていた。
「これ結が一人でやったの??」
「コウさんにも手伝ってもらったよ」
「それでも大変だったでしょ……」
装飾は部屋全体に施されているし、キッチンテーブルも、普段はしないテーブルクロスやカトラリー、ワインなどが綺麗に並べられていた。
「ううん、カカシのこと考えながらやってたから、楽しかったよ」
もー、うちの奥さん、可愛すぎデショ……
たまらずテーブルへとエスコートしてくれていた手をやんわりと外し、その柔らかな体を腕の中に抱き寄せる。
「ありがと……」
「うん」
されるまま抱きしめられていた結の手が、オレの背中に柔らかく添えられる。
結のくれる温もりや安らぎは、いつもオレにこの上ない幸福感をもたらしてくれる。
なくしてしまうかもしれない恐怖がないと言えばウソになる。
それでも、もう手放すことは考えられないから、精一杯守り通す。
里に連れてくることを決めた日から、その思いはずっと変わらず胸の中にあった。
少し体を離しじっと見つめると、「ん?どしたん?」と結が笑顔で見上げてくる。
その可愛い唇を軽くキスをして、オレは手を緩めた。
「なんでもない。
それより、部屋すごくいい匂い。
腹、減ったな」
「ん、ならすぐ作るな!
今日はコウさんに手伝って貰ってやけど、わたしもたくさん作ったからいっぱい食べてな!」
「え?結が作ったの?」
「うん!」
たたっとキッチンの方にかけて行った結が、丸い、ボールのような機械を抱えて見せてくれた。
「これな、コウさんがくれてん!
フードプロセッサーって言うねんて。
ここに食材と調味料を入れてスイッチ押したら、混ぜながら食材を細かくしてくれるねん!
今日はハンバーグやけど、餃子とか、他にもたくさんレシピ教えて貰ったからまた作るな」
「うん、楽しみにしてる」