第9章 居場所
混乱した頭で咄嗟の言い訳が思いつかず、「あ、ぅ……」と変な言葉を発してしまう。
「寝ちゃってた?」
笑いながら、手を洗ったカカシが再びリビングに入ってくる。
そしてぎしっと音を立てて横に腰掛けた。
ヤバい!そんな近いと泣いてたのバレちゃう!
わたしは咄嗟に腰を浮かせてカカシから目を逸らす。
「お、お腹空いたやろ?ご飯の準備、すぐするね!」
キッチンに向かおうとした手を、パシリと掴まれる。
「結、もしかして泣いてたの?」
ビクリ、と体が一瞬固まってしまう。
それを肯定だと悟ったカカシは、グイッと掴んでいた手を引いて、わたしを膝の上に向かい合うように座らせた。
この距離じゃ、誤魔化すこともできないよ……!!
わたしは目をギュッと瞑った。
「結?どうしたの?何かあった?」
温かい手が頬に触れて、拭うような仕草をする。
「イヤや、優しくしんといて……」
優しくされたらそれに甘えて醜い感情も全てさらけ出したくなる。
わたしはグイッと両手を伸ばしてカカシから距離をとろうとしたが、それより強い力で抱きしめられる。
「無理」
耳元を優しくくすぐる声、嗅ぎ慣れた匂いや体温に、思わずまた涙がこぼれてしまう。
「好きな子が泣いてるのに、優しくしないなんて無理でしょ」
顔が見れるように少し離れた体。
心配そうに眉を下げて、優しく見下ろす灰色の瞳がわたしを写す。
「……カカシに嫌われてへんか、不安……、やねん」
「嫌いになる訳ないでしょ」
やっと絞り出した言葉と一緒に出た涙をカカシの大きな手が拭ってくれる。
見上げると、わたしを安心させるようにカカシが目を細めて笑った。
「でも、やっぱ不安にさせてたか……」
「え……?」
「今日同期にたまたま会って話してたら、絶対結は不安になってるって怒られて、茶屋で話聞くからって奢らされたんだよね」
「あ……、それって黒髪の女の人……?」
「え?なんで知って……、て、あ!浮気じゃないからね!
アイツ子供もいるし!」
「うん、わかった」
珍しく慌てるカカシにふふっと思わず笑うと、カカシも安心したように笑う。
その顔にわたしも心底安心してカカシの肩に顎を預けてぎゅっと抱きついた。