第9章 居場所
ある日、1人で家にいると色々考えてしまうのが嫌になり、外に出た。
9月に入ったが、外はまだまだ蒸し暑い。
日傘を差して当てもなく歩いていると、カカシと見た、結婚式のレストランのある丘に着いた。
導かれるように丘を上がって行くと、まだ『close』の看板が掛かっているにも関わらず、なんだか店の中が騒がしい。
何事かと中を覗こうとした瞬間、バンっと両開きの扉が勢いよく開き、女の子が飛び出してくる。
「あの!とにかくわたし、着物の着付けができる方を探してきます!!」
着物……
「あ、あの!わたし着付け出来ます!!」
咄嗟に叫んでいた。
目の前にいた女の子の目がまんまるに見開かれる。
あ……、いきなり叫んで変な人やと思われた……?
気まずさに目を逸らした瞬間、両手をぎゅっと掴まれる。
「きゅ、救世主いましたー!!」
女の子は店の方に向かって大声を張り上げると、クルリと私の方に向き直る。
「お時間ありましたらお手伝いお願いできませんか??」
「わ、わたしでよければ……」
「ありがとうございます!!」
あれよあれよと、わたしは満面の笑みの女の子に案内されて店の2階へと上がった。
棒のようになってしまった足を引きずって、丘を降りて家路を急ぐ。
オレンジ色の夕日に照らされた里は、いつもより素敵に見えた。
楽しかった、な……
今日の結婚式で、担当するはずだった着付けの方が急に入院することになり、その代わりに着付けと、ヘアメイクのお手伝いもさせてもらった。
わたしのしたことで、喜んでくれる人がいる。
この手で笑顔が作れる。
こんなことは初めてで、それがすごく嬉しかった。
カカシに早くこのことを言いたい……
そう思ったとき、見慣れた後ろ姿が見えた。
カカシ!そう呼びかけようとしたそのとき、横にすごく綺麗な女の人がいることに気づいた。
女性らしく色っぽいその人は、気安い感じでカカシの肩を笑いながら軽く叩く。
さっきまで飛べそうなくらいウキウキとしていた気持ちが音を立てて萎んでいく。
2人がお茶屋さんへ入って行くのを何も出来ず見送って、わたしは家の方へと駆け出した。