第9章 居場所
事後、独特の気だるい体を横たえて、静かな寝息を立てながら眠るカカシをそっと見る。
最近仕事が立て込んでいて、目の下には薄らとクマができている。いつもならシたあとはシャワーを一緒に浴びてから眠りにつくのだが、今日は抱き合って微睡んでいる間に眠ってしまった。
一緒に暮らしていてもあまり見ることができない無防備な寝顔を見れて嬉しいが、体を壊してしまわないか心配になる。
一緒に暮らし始めてから1ヶ月。
わたしたちは式どころか婚姻届さえまだ提出していない。
カカシは忙しいから仕方ないんだけど、それについてカカシは家で一切話題にしない。
今日あったことや、しょうもないことを言い合うばかりだ。
カカシがわたしのことを大事に思ってくれていることは、言葉や態度、触れる仕草から嫌というほど伝わってくる。
それなのに、わたしは時々どうしようもなく不安になってしまう。
それにカカシは絶対に避妊を怠らない。
結婚を考えているなら、いつ子供ができたっていいはずだ。
でもするときは絶対ゴムをつけるし、やむを得ずゴムがないときも外に出す。
遊女のときも必ずゴムはしてくれていたし、本人はその延長で深く考えずしているのかもしれないけど、そのこともわたしの不安を、助長していた。
『カカシは本当はわたしと結婚なんてしたくないのかもしれない』
そんな言葉が頭をグルグル回る。
元遊女というレッテルのせいで、自分を酷く低く評価してしまうわたしの癖。
直したいのに、そこからなかなか抜け出せずにいた。
こんな女、面倒臭いにもほどがある……
わたしは滲んだ涙をゴシゴシと擦ると、起こさないようにカカシの腕をそっと抜け出し、涙がおさまるまで浴室で熱いシャワーを浴び続けた。