第1章 月下の出会い
「で、今日は上客の大名とのお付き合い。
本当は里にいて戦後の処理とかしたいけど、ま、これも仕事だししょうがないね」
大きな戦いがあったことはうわさ話で何となく知っていた。
そこにこの人もいたのかと思うと不思議な気持ちになる。
そして無事でよかったなと思い、何で今日会ったばかりの人にこんな気持ちになるのか自分でもわからなかった。
「忍も大変なんやね」
無難に返すと、カカシがスッと手を伸ばしてわたしの目の下を人差し指でなぞる。
その手の大きさとぬくもりに、ドキリと胸が音を立てる。
「遊女もね。
クマ、できてるよ」
そう言うと、カカシはすぐに手を引っ込めてしまう。
なぜかそれがすごく寂しい。
「カカシもやろ?人のこと言われへんで」
わたしはおちゃらけて返しながら、寂しさを振り払うように立ち上がった。
「さ、クマクマ同士、もう寝よ」
「そーね」
カカシは相槌をうつと、わたしにならって立ち上がった。
わたしは布団がひいてある奥の間の襖を開ける。
そこには朱色の絹でできた上等のふとんと枕がそれぞれふた組、ぴたりと並べて敷いてあった。
カカシはテーブルを隅に寄せると、ズルズルとふとんをひと組引っ張ってきて電気を消し、とっとと潜りこんでしまった。
あ、本当に寝ちゃうんだ……
いったいさっきからなんなんだろう、この寂しい気持ちは。
触れられると嬉しくて、離れると寂しい。
もう少しでいいから一緒にいたい……
「夕月は寝ないの?」
動かないわたしを不思議に思ったのか、カカシが布団越しにわたしを見上げる。
わたしは自分自身のこの訳のわからない感情にイライラしてしまい、どうにでもなれと自分の布団をカカシの横に引っ張ってくるとそこに寝転んだ。
「ちょ、それじゃ意味ないでしょ!?」
ビックリしてカカシがわたしを見る。
わたしはカカシが逃げられないようにふとんに手を突っ込むと、服の裾をギュッと握りしめた。
「……もうちょっとだけ、一緒にいてや。
カカシが寝たら、向こう帰るから……」
わたしはまともにカカシの顔が見れず、俯いてボソボソと言った。
これじゃまるで駄々っ子だ。
感情の波に支配されて、自分でも制御できない。
なんだかもう泣きだしてしまいそうだった。