第6章 痕
「カカシ、大好き」
「うん、オレも大好き」
もう一度唇を合わせ離すと、結が少し笑って、それから大粒の涙をこぼした。
「でも、わたし、カカシとは結婚できひん……。
せっかくプロポーズしてくれたのに、ごめん……」
「なん、で……?」
急な言葉に戸惑い結を見上げる。
「わたし、家事全然できへんし、遊女やから結婚したらカカシの評判が落ちちゃう……。
わたしと結婚したって、カカシにいいことなんかひとつもないもん……」
ポロポロ泣き出す結を起こして、膝の上に横抱きにして抱きしめる。
「……最近元気がなかった原因は、コレ……?」
「……っ」
嗚咽でうまくしゃべれないのか、結がコクコクと頷く。
「良いことないわけないでしょ。
良いことだらけだよ」
「なん、で?」
「毎日帰ったら結がいて、抱きしめて眠れるんだよ?
休みの日は一緒に飯食って散歩行ったり。
最高でしょ?
それに誰に言われたか知らないけど、それで評判が落ちるようならオレがその程度のヤツだったってだけ。
オレ、そんな頼りない男?」
ヒク、ヒク、としゃくり上げながら、結がブンブンと首を横に振る。
「どっちかと言えば、全く知り合いもいないところに連れてっちゃうし、里を守るためなら自分の命も惜しくないと思ってるし、いつか結をひとりにしちゃうかもしれない。
まぁ、だからオレの方こそ、嫌われないか心配なんだけど……」
「っ、く……、嫌いになるわけ……、ないやん」
結の目からあとからあとから流れてくる涙をペロリと舐めた。
「もう、化粧もしてるし汚い」
「うん。でも、やっと笑った」
泣いてぼろぼろになった顔で笑う結が愛しくて、強く腕の中に抱きしめる。
腕の中、モゾモゾ動いて向き合うようにオレの膝を跨ぐと、結もぎゅっと抱きついてきた。
化粧でうまく隠してたけど、結の目の下にはひどいクマがあった。
結のこと、抱きたい。
他の男の痕跡なんてすべて消してしまいたい。
でも……。
「さ、もう寝よ。
結、すごい疲れた顔してる」
体を離そうとすると結がしっかりと抱きついてきた。