第1章 "誰かを想うこと" 社長のお誕生日ss
そして、全てを諦めた俺が与謝野に無理矢理連れて来られたのは探偵社に程近い、小さな佇まいの洒落た雑貨屋だった
先導していた与謝野が扉を開けると、鈴の音が鳴り、俺達の来店を知らせると、店員が挨拶をする
軽く会釈をして、店内へ入り、中の様子を見ると、直ぐ傍の棚には細々とした、しかし、煌びやかな商品が数多く並べられていた
「へぇ〜、こんなもんが売ってんのか」
俺は手近な棚の上の商品をしげしげと眺めた
そして、ふと、視線を外した時、とあるものが集められた一角が目に入ると惹きつけられる様に其方へと歩み寄った
立ち止まった先には猫まみれ、ほこほこあったまる猫特集と書かれていた棚であった
上から下まで隈なく眺めていると……
「何か、目星いものは見つかったかい?」
入店した直後から姿が見えなかった与謝野が俺に声を掛けてきた
それに俺は肩を震わせて、背から顔を覗かせる与謝野の方へ視線を向けた
「おや、」
そして、一角に掲げている文字を見て与謝野は笑みを溢した
「善い選択じゃないか、」
その言葉に我へと返った俺は一角に設けられた処と与謝野へと交互に視線を向けた
そして、彼女が発した言葉の意味を理解すると共に視線を逸らした
「ち、違ぇよ……俺は、別に……」
視線を泳がせながら言葉を発したが、隣へと立った与謝野はその一角から数個手に取ると共に言葉を紡いだ
「あんたも知ってるだろうが、社長は無類の猫好きだからねぇ……この中から選ぶのが善いんじゃないかい?」
与謝野は更に発掘する為に手を動かす、俺の話などお構い無しの様だ
そんな与謝野に俺は息を吐きながら再び、視線を棚の方へと戻した
すると、瞬きをするのも忘れるほどに、とある商品に惹かれた
俺は其方へと手を伸ばして取ると、眺める様に見つめる
「おや、それは……」
隣では俺の様子に気が付いたであろう与謝野が声を漏らした
しかし、この時の俺は気が付かずに持参した鞄から、事前にプレゼントを買う為の給料分だと渡された金の入った財布を取り出して会計場へと向かう
頭を軽く下げて挨拶をする店員に俺は手に持っていた商品を差し出した