第23章 早とちりも程々に※
宇髄さんから「今日は口でして」と言われたのは初めてのこと。
今までは情交の途中で口ですることはあっても自ら「口でしてくれ」と言われたことはない。
口淫が嫌いなわけではないけど、情交中と違い素面の状態でのそれは少し気恥ずかしい。
「…え、と…よ、横になる?よね?」
「んーー、そうだな。」
そんなことすら聞かないといけないのは初めてのことでドギマギと彼を見てしまう。
もう少し…口付けとかしてくれないかな。
そうしたら気分的にやりやすいのに。
「…宇髄さん。」
「あ?どうした。」
「…あの、その……。」
「何だよ?あ、ひょっとして嫌だったか?」
「ち、ちが!そ、そうじゃなくて…。」
どう伝えればいいのかもわからない。
よく考えたら私は自ら彼に「口づけをして」と頼んだこともないのではないか。
少なくとも素面ではない気がする。
(どうしよ…。めちゃくちゃ恥ずかしい…。)
何度情交をしているかわからない。
それなのにそんなことを頼む勇気もないなんて自分に驚くことしかできない。
「…ほの花?無理しなくても嫌ならいいぜ?」
「…嫌じゃない。やるけど…その…。」
「おー。何だよ、どうした?」
そう言って優しく頭を撫でてくれる宇髄さんだけど、"口づけをして"と頼んだとして、もし"したくない"気分だったらどうしたらいいのだろう?
それこそ申し訳なさすぎる。
(…やっぱやめとこ。別にそのまますればいいじゃん。)
考えを改めることにした私は「何でもない」と言い、彼の手を引っ張って布団に誘う。
「ちょっと待った。」
それなのに止めたのは宇髄さんで、私を見ると深いため息を吐いた。
「お前、いま何を諦めたんだよ。」
「え?…諦めた?」
「諦めただろ。俺に伝えることを。言ってみろって言っただろ?お前、俺のこと舐めてんのか?どんなほの花でも受け入れる自信しかねぇのに今更何を諦めたんだよ。」
宇髄さんはそう言うと、私の口を横に引っ張って「ほら、言え。」と催促して来た。
これでは言いたいことも言えないではないか。
しかし、そんな苦言を言おうにもあまりに優しい顔をして私を見ているので何も言えずにコクンと頷くことで了承の意を伝えた。