第23章 早とちりも程々に※
「だから何で私を選んでくれたのか不思議で仕方ないですよ。あんな100年の恋も冷めるようなことをしてしまった私を。宇髄さんってあんなに美丈夫なのに実はああ見えて物好きなんですよね。ふふっ。」
ほの花さんの話を聴いて彼女の先ほどの行動に合点がいった。
たかが背中を撫でる行為がどれほど尊いことなのか身をもって実感している彼女だからこそ、あの少女の背中を拒否されながらもずっと撫で続けていたのだろう。
医学的にその行為自体に効果があるのかどうかもわからないし、興味もなかったけど、この人を見ていると人の持つ温かさは痛みを和らげる効果があるのかもしれないと思わされる。
手に持ったままの竹皮の中にはまだおにぎりが三つも入っている。身長は僕よりも高いのに恐らく目方は僕のがあるだろうと言うほど華奢な彼女なのにそばに居るだけでその温かさに包まれているようだ。
そんなに大食いにも見えないが、もう一つそれに手を伸ばすとまた美味しそうに頬張るので一つ息を吐くと歩みの速度を緩めて彼女の横に並んだ。
「…僕も一つもらってもいいですか?」
「え、あ、はい!もちろんです!どうぞ。中身は鮭と梅です。どっちが当たるかなぁ〜。私が今、食べたのは鮭でした!」
「…どっちでもいいです。ありがとうございます。」
姉は居ないはずなんだけど、そう言って笑うほの花さんが家族のように温かくて何だか少し泣きそうになった。
そんな感情、此処暫く感じたことなかったのに。
おにぎりにかぶりつくことで隠したけど、冷や飯の筈なのに何故だか炊き立てのご飯で出来たおにぎりのように温かくてふわふわで美味しかった。
まるでほの花さんのようだと感じて、食べ終わってしまうと物凄く残念な気持ちになった。
「…鮭でした。」
「あ、じゃあ仲良く半分こずつですね。梅もどうぞ。」
「いいんですか?ほの花さんのがなくなってしまいます。」
「一人で食べるより一緒に食べてくれた方が美味しいです。だから食べてくれませんか?」
物欲しそうな顔をしていたのだろうか。当然のように残りの一つもくれると僕はそれを頬張り出す。
人の温かさは感傷的になる。
そして彼女の言う通り、人の痛みを和らげる効果があるのかもしれないと思わざるを得なかった。