第23章 早とちりも程々に※
腹部の裂傷は思ったよりも深く、その場で止血のために簡易麻酔をして臓物が傷ついないことを確認すると縫合を先にすることにした。
麻酔をしたことで出血も少し止まりかけていたのでその隙に慌てて糸を縫い付けていったが、私とその隊士の人の間に会話はない。
もちろん処置中に話しかけられても気が散るからやめて欲しい気持ちもあるのだが、先ほど私に突っかかってきた相手だ。
しかも「後から話すぞ、コラ」的なことを言ってしまっていたので、こちらもその話を蒸し返した方がいいのかと迷っていた。
やっとのこと止血が完了したので、傷薬を塗り込み、ガーゼを置くと彼と向き合った。
「…続き、話します?私が好色女だという話。」
「………。」
しかし、彼はそっぽを向いたままその話には乗ってこない。どうしたものか…と考えたが、要するに私が特別扱いされているようで気に食わないのだろう。
「…私は宇髄さんと恋仲になるまで誰ともそう言う関係になったことはありません。生まれて初めての恋人が宇髄さんです。特別扱いされているようで腹が立つのは分かりますので、いつでも喧嘩を振ってください。受けて立ちますよ。こんな嫌みを言って小さなことをせずとも…。」
「ち、小さい男で悪かったな!!」
心が狭小だと言われたのが腹が立ったのかやっと目を合わせてくれたその人だが、目が合ったと言うよりも睨みつけられたという表現が正しい。
「それは失礼しました。周りを巻き込み私に辱めを受けさせようとしたところで無意味です。そんなことで私は傷つきませんので。」
最初の頃こそ、ウジウジと悩んでいたが言われたとしても宇髄さんの継子も恋人もやめられないのだから。私のすべきことは一つ。
苦言を真正面から受け止めて、喧嘩を受けて立つくらいだ。
女だからと言って変な遠慮をするからこんな小さいことをするのだろう。
「…っ、チッ、はいはい。俺が悪ぅございました。」
「別に謝って下さらなくて結構ですよ。腹部の怪我が治ったらまた喧嘩しましょう。私はいつでも受けて立ちますから。」
「…変な女だな、あんた。」
「褒め言葉として受け取っておきますね。」
彼の腹部の応急処置を終えると蝶屋敷に運んでもらうため隠の人にお願いをして、ホッと一息をついた。