第23章 早とちりも程々に※
お兄さんが着ていた着物を抱きしめたまま咽び泣いている"こはる"ちゃん。
まだ年は十歳位だろうか。
親もいないと言うことは病気か何かで亡くなったのかもしれない。そんな中で唯一の家族も亡くなったのだ。絶望の淵にいることは間違いない。
「…私もね、もう半年以上前のことだけど、家族を全員亡くしたの。鬼に…襲われて。父親はその時鬼にされて、私がとどめを刺した。」
何を話してもこの子の心に"いま"響くのは難しいかもしれない。それでもきっかけになればいい。立ち直るきっかけに。
思い出すのがつらいことでも誰かのためになるかもしれないと思えば、いくらでも思い出そうと思える。
悲しみの連鎖はできるならば断ち切りたいのだから。
「でも、私はたくさんの人に支えられていま生きてる。鬼になった父の娘だけど。兄を殺したのは父だけど。それでも生きていく。生きることに希望を見出せない時に人の温かさを知ったから。」
あの時、宇髄さんに出会わなければ
あの時、産屋敷様に出会わなければ
私はどうなっていたのだろうか。
そう考えると怖い。
だって私はこの世にいないかもしれないのだから。
絶望に駆られて命を投げ打っていたかもしれない。そんな未来を予想できてしまう自分が情けないけど、弱い自分も私の一部。
全て認めて受け入れることで私はもっと強くなりたい。
「あなたは何も悪くない。今はつらくて悲しくても絶対に朝は来るから。明けない夜はないの。私が保証する。」
絶望に打ちのめされたとしても生きてさえいればやり直せる。こんな小さな子に酷なことを言ってしまったかもしれない。
それでもその足で未来への道を歩んで欲しかった。
亡くなったお兄さんの分まで。
「…お姉、っ、さん、」
目に涙をいっぱいに溜めた彼女がこちらを向くとそのまま抱きついてきた。
まだ少女と呼ばれる年齢で天涯孤独になったのだ。人肌が恋しいのだろう。
私に抱きつくと堰を切ったように再び泣き出してしまった。
それでも、私は彼女を抱きしめ続けた。泣き疲れてその場で寝てしまうまで。
私が宇髄さんにいつもしてもらって安心するように"こはるちゃん"にも同じ体験をしてもらいたかったから。