第23章 早とちりも程々に※
首に舞扇がめり込む嫌な感覚を感じると、トン…と首が地面に落ちた音が聞こえて来た。
鬼狩りは必要なことだと思うけど、首を斬る感覚は慣れない。どちらかといえばあまりしたくないと思ってしまうのは私が医療者だからだろうか。
後ろを振り向くと、ボーッとした表情でこちらを見ていた時透さんに声をかけようと思い口を開きかけた瞬間、悲鳴が聞こえてきたことで驚いてそちらを向く。
「お兄ちゃあああああん!!!何で、どうして!!!お兄ちゃぁああん!!何で体が、きえてるの!!やだぁっ!!」
そこには崩壊が始まった鬼の体の横にその首を持って半狂乱になりながら叫ぶあの少女の姿。
自分の兄を見つけて白虎から無理やり降りたのだろう。隣で動揺した様子の彼がこちらを見ていた。
鬼が二体いたのは合っていたが、その内の一体がまさかこの子のお兄ちゃん。
要するに時透さんが斬った鬼がお兄ちゃんだったことになる。
「ひとごろしぃーーー!!お兄ちゃん返して!!返してよぉぉおおっ!!!」
慌てて近く寄り、彼女の背中に触れると「触らないで!!」と拒否されてしまう。
「…落ち着いて。その人は鬼になってしまって…」
「ひとごろしっ…!お兄ちゃんのこと…っ、殺した…!たった一人の家族だって言ったじゃん…!探してくれるって言ったのに…!」
いつの間にかそこには先ほど一緒だった鬼殺隊士の二人も到着していて半狂乱のその子を見つめている。
ついに持っていた首まで崩壊が始まったところでその鬼が口を開いた。
「…こ、はる…、ごめん、な。」
最期まで言い切ることもできずに全てが崩壊してしまったその鬼の首。
それと同時に泣き崩れるその子、"こはるちゃん"の背中を再び触れて撫でる。本来、鬼がこんな風に言葉を喋るなんて聞いたこともないのに余程無念だったのだろう。
ひょっとしたら彼は妹を守るためにずっとこの辺りを彷徨いていたのかもしれない。
それでも、鬼かどうかなんてこの子には分からないこと。鬼だから斬りましたなんてこちらの勝手だ。
…それでも、斬らなければならない。私達は鬼殺隊。
あなたのお兄様は人を喰らってしまった人喰い鬼なのだから。
私の父もまた兄を喰った人喰い鬼。
そして私は人喰い鬼の娘。
でも、それを胸に生きていく。