第23章 早とちりも程々に※
「っ、白虎!その子を連れて逃げて!」
「御意。」
「稀血ィイイイッ!俺の稀血ィイイイ!!!」
目をカッと広げて涎を垂れ流しながら追いかけようとする鬼に攻撃をしかければ、気を取られているせいでがら空きの間合い。
私の舞扇を正面から食らって呆気なく吹っ飛ばされる。
チラッと白虎を見遣れば少女を口で咥えて少し遠くにいてくれる。しかし、地面に突っ伏していたのに急に浮遊感に襲われたことで驚いた彼女はこちらを見てワナワナと震えている。
その瞬間、彼女の言っていた言葉を思い出す。
(…っ!そうだ、お兄ちゃんって…?)
吹っ飛ばされた後、切り裂いたはずの腹部の傷も既に完治しているその鬼と再び向き合う。
しかし、もし本物の「お兄ちゃん」ならば先ほどまでの彼女の様子からすれば大きな声で呼びそうなものを…。
後ろから感じるのは鬼を見て恐ろしくて震えている様子の彼女。いや、白虎に咥えられているから怖いのか。
「…ねぇ!アレがあなたのお兄ちゃん?!」
戦闘態勢を崩さずに後ろに言葉を投げかけると僅かに首を振る姿が目に入る。
(…それは困ったな。)
要するに此処には鬼が一体ではないということ。
まだ彼女の兄が鬼化したとは決めきれないが十中八九そうだとして、この鬼ではないならば早く仕留めなければ二体同時に襲ってきたら流石に彼女を守りきれないかもしれない。
しかし、再びその女の子に目掛けて襲ってくる鬼の攻撃を阻止すると背後から嫌な気配を察知する。
(…やばい。とりあえず、一旦式神を出して撤退するか?一人では守りきれない。)
「稀血ィイイイッッッ!!!!邪魔するなアアアッッッ!!」
「邪魔するに決まってんでしょーが!!」
どうする?
隙を見て首を斬るか?だけど、足音がどんどん迫ってきている。
鬼門封じをして首を斬っている間に彼女が襲われるとまずい。流石の白虎も咥えながらは戦えない。人命が優先だ。
しかし、迷ってる暇はない。二体に襲われたらそれこそ大惨事だ。
私は舞扇を構えると一度鬼に斬撃を与えてぶっ飛ばすと、その隙に首を斬るために陰陽道を発動した。
──陰陽道最終奥義 鬼門封じ
──霞の呼吸 参ノ型 霞散の飛沫
私の攻撃と同時に聴こえて来た声には聴き覚えがあった。
霞柱 時透無一郎
その人は音もなくそこにいた。