第23章 早とちりも程々に※
「お兄ちゃんを探してるのね?それなら一緒に探してあげるから少し落ち着いて?」
「や、やだ!お兄ちゃんはあんな人じゃないもん…!お兄ちゃんはあんな酷いことしない…!お兄ちゃんはどこ?!本当のお兄ちゃんはどこなの?お兄ちゃんがいないと私ひとりぼっちになっちゃうよぉ!!うわああぁあぁあっ!!」
ふらふらと彷徨っていた足取りは遂にその場に崩れて、同時に泣き始めてしまった。
漸くその場に留まってくれたので、背中を撫でてあげると吃逆をしながらも今度は逃げずに地面に頭をつけたまま大人しくしている。
一体何があったのだろうか。
此処まで錯乱するには理由がある筈だ。
「お兄ちゃんとはどこではぐれたの?」
「っ、ひっ、く…お、にいちゃ、ん。此の森ではぐれて…1週間経つ…。でも…、さっき見たあの化け物が…お兄ちゃんと同じ着物着てた…。」
ぽつりぽつりと話してくれる言葉はある可能性を示唆している。
まさか…、ソウイウコトなのだろうか…?
「…家族は?」
「…お兄ちゃん、だけ…しかいないの。ねぇ、お姉ちゃん、お兄ちゃんみつけてくれる?!おねがいっ!!お兄ちゃんがいないと…、わたし、ひとりぼっちになっちゃう…!!おねがい…!!」
何ということだろうか。
たった一人の家族が…
(……鬼になってしまったかもしれない、ということか…)
その場で泣き噦る彼女はまだ子どもだ。
私ですら家族が鬼になったと言われた時の絶望感で食事が喉を通らないほどツラい思いをした。それがこんな小さな少女に降り掛かるなんて…。
背中を撫でてあげることしかできないが、少しでも彼女の心が安らかになるように祈って撫で続けた。
「…私もね、ひとりぼっちだったの…。でもね、大丈夫。ひとりじゃないよ。大丈夫。大丈夫だよ…。」
心細くて悲しくてつらくて
この子の心の内を考えるとそんなちっぽけな言葉は安っぽいと感じてしまうかもしれない。
それでも、私はあの時、彼の手の温かさで"ひとりじゃない"と感じることができた。
小さな体を縮こませて地面に顔がめり込むのではないかというほどつけて号泣している彼女に"ひとりじゃない"と伝えたくて。
人は天涯孤独と思っても
人に助けられて生きているのだから。