第4章 実力試験は実戦で
その日もいつも通り産屋敷邸に向かうと同じように薬を調合した。産屋敷様はいつも優しい空気感で微笑んでいるけど、体調はゆるやかに…だが確実に悪くなっていっている。
神楽家と古くから付き合いがあった産屋敷家の当主である耀哉様。
薬を処方しても対処療法に過ぎないとここ最近気づいてしまい、顔を合わせることが少しだけつらい。
自分は医者じゃないし、治療はできない。
かと言って産屋敷様は長くは生きられないと悟っており、積極的な治療はされていない。
いや、恐らく方法がないのだろう。
延命治療は投薬のみ。
駄目だと分かっていても会うと耀哉様の背中に触れてほんの少しだけ摩ってみる。一瞬だろうと彼の痛みやつらさが減ることでやっと役に立っている気がするのだ。
宇髄さんにバレたらきっとお叱りを受けるはずだから分からないように少しだけ。
それならば帰るまでには反動の疲労も改善して良くなっているから。
「ありがとう。ほの花。だけどほの花も無理をしたらいけないよ。天元に叱られてしまうからね。」
「私は大丈夫ですよ。毎日宇髄さんや奥様達に良くしていただいて…。産屋敷様が宇髄さんの継子に指名して下さったからです。本当にありがとうございます。」
…驚いた。
突然、全てを見透かしているかのような言葉にドキッとした。段々と怠さが体を襲うが、最近では宇髄さんの鬼の鍛錬のおかげで前のように倒れ込むことはない。
「ほの花と天元はとても相性がいいと思ったんだよ。これからもっと君たちはお互いが必要不可欠になると思う。だから…ほの花は天元のためにも無理をしないようにね。」
「必要、不可欠になる…?宇髄さんの役に立つ継子になれるということでしょうか?それならばとても嬉しいです。」
それ以上、産屋敷様は微笑んだまま何も語らなかったけど、私の治癒能力以上に彼の声は疲れが取れるような気がする。
優しくて、温かくて、慈悲深い。まるで真綿に包まれているようなそんな感覚になりながら私は産屋敷邸を後にした。