第22章 今の上官は風柱様です!※
約束の口づけにしては些か物足りないが、相手はほの花だ。これ以上望むことは荷が重いだろう。目を開ければ真っ赤な顔をして顔を背けているほの花が可愛くて口づけは物足りないのに心は物凄く満ち足りていた。
「…ちと物足りねぇが、仕方ねぇな。行くか。あんみつ鱈腹食わせてやるからよ。」
「う、うん!」
あんみつが嬉しいのか
それともこの羞恥を伴う行為が終わって嬉しいのか
満面の笑みを俺に向けるほの花に"日常が戻ってきた"と感じるには十分で、再び彼女の手を引くと歩き出す。
俺があげた新しい髪飾りはほの花の栗色の髪によく映えていて似合っている。
自分の物を選ばされたとは思ってもいなかったのだろうが、欲のない女にどれがほしいと聞いてもすぐに決められないに決まってる。
ほの花の心中を察すると無神経なやり方をしてしまったとは思うが、これで良いんだ。
初めてほの花が良いと思ったものを贈れたんだから。
ふと隣を見れば長い睫毛が上を向き、ほんのりと薄紅色の頬に、品の良い紅が唇に差してあり色気を醸し出している俺の女。
(…もう死ぬまで苦労してやるわ。覚悟しろ、俺。)
無自覚の美人はとんでもない爆弾を抱えたまま無遠慮に町を練り歩くものだから敵味方関係なく爆弾を投下していく。
「ほの花。」
「え?何?」
「その化粧、クソほど綺麗だけどよ。俺の隣歩く時以外はすんな。男が寄ってくるから。」
「……宇髄さんが変わってなくて安心した。」
そう言って困ったように笑うほの花がやはり綺麗で手をひくと腰を抱き寄せる。
こうすればほの花が俺の女だと一目瞭然だろう。
「そう簡単に変わるかよ。お前のことを好きな気持ちを変えることなんかできねぇから。」
「その気持ちはすごく分かるけどね。私も宇髄さんのことずっと好きだったから。」
「…やっぱヤる?」
「あんみつ食べたい。」
「…そうかよ。」
俺たちは昔のように体を寄せ合って、甘味処に向かうと、何も変わることなく甘味を食べた。
変わってしまった日常を取り戻すのがこんなに大変だとは思わなかった。
でも、その分、今日食べた甘味は今までで一番美味かった。