第22章 今の上官は風柱様です!※
一度もこちらを振り返ることなく歩いていく宇髄さんに引き摺られるようなるのは自分の足がそちらに行きたくないと言っているから。
帰りたい…。
死ぬほど帰りたい。
惨めすぎて泣きたくなってきた。
こんな仕打ち酷くないか?
新しい恋人を作るのは勝手だが、わざわざ私に見せつけることがあるだろうか。
こんなに女心がわからない人だっただろうか?
ムッとしながらも何とか"継子なんだから"という立場のおかげでこの場に留まっていられるが、本来ならば逃げ出したいところだ。
彼の姿を視界におさめると苛々が募るばかりなので下を向いて自分の足元を見ることで凌いだ。
定食屋さんを出てから歩くこと10分ほどで「着いたぜ」と言われて顔を上げたが、視界に広がった世界に私は息を呑んだ。
一面、ツツジが咲き乱れるそこに目を見開くと宇髄さんが「すげぇだろ?」と得意げにこちらを見て笑った。
確かにすごい。
陽の光を燦々と浴びて華やかな桃色を披露するその姿は凛としていて美しい。
その中央には池のような水辺があり、そこに映るツツジもまた美しかった。
「…確かに、すごく綺麗ですね。」
「だよな?」
「きっとお連れしたら喜ぶと思いますよ。」
「そうか?よし、それなら今からお前に紹介してやろう。」
「……え?」
私はこの場所に想い人を連れてきたら喜ぶと思うとは伝えたが、今、会いたいとは一言も言っていない。
「い、いや、大丈夫です!!私、今日はちょっと都合が…!またの機会に!」
「何言ってんだよ。用事ないから来てくれたんだろ?しかもさっき紹介しろって言ってたじゃねぇか。だから紹介してやる。」
言った。確かに紹介しろと言ってしまった。
何故そんなこと言ったのだ。
その時の私に舞扇で斬首してやりたい。息の根を止めておいた方が余分に傷つかずに済むのだから。
もう今日何回目なのだ…?とため息を吐くと再び彼に手を繋がれてツツジ畑を進んでいく。
いつの間にか繋ぎ方が昔に戻ったようで勘違いしそうになる。
今日は厄日だ。
本当ならば幸せなこの時間も自分のためではなく全て想い人のための下見で、よりにもよって嫉妬でぐちゃぐちゃなときに紹介されるなんて拷問もいいところだ。