第22章 今の上官は風柱様です!※
小間物屋さんを出ると宇髄さんはこちらを見てニヤリと笑った。
「お前にだけ特別にアイツと出会ったところを教えてやろう。」
「…別に良いです。お構いなく。」
「何だよ、遠慮すんなって。」
急に何を言い出すかと思ったら想い人との思い出を教えてくれると言う。
いや、知りたくないです。本当に。
遠慮じゃなくて。
本気で知りたくないです。
何ならもう帰りたいです。
しかし、腕を引っ掴まれるとグイグイと引き摺られるように前を進む宇髄さんについていくしかできない。
前を歩く彼は昔と変わらないのに、この腕はもう私じゃない誰かを抱きしめるんだと考えると嫉妬でおかしくなりそうだった。
向かう先はどこかわからないが、もう少ししたら私たちが出会った定食屋さんがある。
そんなところ今は見たくないのに、通らないといけないのか…と考えると少しツラい。
それなのにあろうことかやっと通り過ぎると思っていた場所に近づくと速度を緩めてその場所に止まった。
「此処〜。」
「…え、こ、此処?!」
「おー、偶然お前とも此処で会ったよな。驚いた?」
いや、この人傷口抉ることしかしてこない。
もう引っ叩いて帰ってやろうかとも思ったが、「そうですね」とかろうじて返事をした私は大人だと思う。
「…あの、もう良いですか?私、帰りたいんですけど。」
思わず本音が出てしまった。
師匠にそんなこと言ってしまって、若干後悔したが、これ以上想い人との馴れ初めを聞くことなんてツラすぎる。
「まぁ、待てって。甘味奢ってやるって言ったろ?」
「もう良いですよ。それなら買って帰りましょう?その方がみんな喜びますから。」
「まぁ、そう言うなって。もう一箇所付き合え。そうしたら帰るからよ。」
私の訴えも全く取り合ってくれない宇髄さんは涼しい顔をしてまた手を掴むと歩き出す。
歩幅はいつのまにか私に合わせてくれているけど、そんな優しくされたって、今あなたの心に思い浮かべてる女性の代わりにされてるならこんな惨めなことはない。
早く、解放してほしい。