第22章 今の上官は風柱様です!※
夢なのかな?
この手の温もりも、彼が言ってくれた言葉も全て。
込み上げてくる涙だけは本物なのに、実感が湧かなくてぼーっと彼の後ろ姿を眺めていると、いつの間にか見慣れた屋敷に帰って来ていた。
縁側に薬箱を置いてくれた宇髄さんに慌てて御礼を言うと部屋の襖を開けてくれる。
「…ほら、早く入れ。ほの花。」
「あ、は、はい!」
一週間ぶりなのに物凄く久しぶりに感じて、ぼーっとしながらそこに足を踏み入れた。
その瞬間、後ろから宇髄さんに抱きしめられて体を硬直させた。
「…ほの花、おかえり。」
"おかえり"って言われるのは物凄く嬉しいし、この場所に足を踏み入れられただけで幸せを感じている。
それなのに抱きしめられたことだけは申し訳なさでいっぱいになった。
駄目
駄目駄目
駄目だよ
汚いよ、私。
宇髄さんが汚れてしまう…!
そう感じて咄嗟にその手を振り払ってしまった。
「…ほの花?」
「あの…、私…血だらけなんです…。処置終わりなので…。」
「あー…確かにそうだな。風呂入るか?」
「皆さんそろそろ起きる頃ですよね…?起きてからにさせてもらいます…!」
うまく言い訳できたかどうかはわからない。
それでも彼に抱きしめられることが怖かった。
彼が怖いんじゃない。自分が汚い気がして。
「…とりあえず、先に手だけ洗わせてもらってもいいですか?」
返事を聞かずに逃げるように部屋を出ると洗面所に向かった。
ひょっとして宇髄さんは継子だけじゃなくて、恋人としても許してくれようとしてるのだろうか。
そんなこと夢のまた夢のことで、頭がついてこない。
もちろん願ってはいた。恋人に戻れたら…といつも願っていたけども…
実際、彼に抱きしめられると自分の体が穢らわしいと感じてしまって、宇髄さんに申し訳なくて逃げてしまった。
違う、申し訳ないって言うのは建前だ。
私は彼にまた拒否されるのが怖くてたまらないんだ。
それならば最初から元に戻らなくていいと思っているんだ。
継子だけならまだ傷口は浅く済むから。
駄目なのかな?継子だけで十分なのに。
それ以上望んでくれても、私はそこに踏み込む勇気がないんです。